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8月16日日曜日 2年目
「あ、お帰りーー!!」
一人暮らししてから、ひと気がある家に帰ってくることなんて、声の主と付き合うまでなかった。
「ただいま」
玄関で靴を脱いでいると、近づく足音がし、脱ぎ終わる前に、抱きしめられる。
「ちょ、ちょっと、まだ靴」
”痛い”と咄嗟に言いかけて言葉を飲み込んだ。身動き取れない力で覆われる。
「お帰り」
暫し時間が流れ、ようやく満足したのか解放された。
「お茶入れとくわ」
返事をしようと顔を上げた途端、触れるだけのキスをして、大きな身体は背を向けて駆け出していった。
「もっとゆっくりしないで良かったのかよ。一泊二日しかいなかったんじゃね?」
「良いんだよ。近いんだから帰ろうと思えばいつでも帰れるし。顔出しただけで」
「今日こんな早くに帰ってきて……」
「明日から、会社だしな」
「それに、ダイスケが心配だったし」
テーブルの上には、参考書が広がっている。
聞くところによると、お盆は補習授業がないらしい。
『解らないところが解らない』と言う大介の勉強を、直弥はお盆の間、拙いながらも見てやっている。
勉強なんて久しぶりで、直弥自身もなかなか思い出せず、悪戦苦闘しながら。
言い訳じゃないけれど、内容も自分が受験した頃より難しくなっている気がする。
何年も前だ。内容も変わっている。
「一人でもちゃんと勉強、やってたって!」
少し拗ねた大介の顔がやけに幼くて、直弥は笑みを零した。
「ごめん、そういう意味じゃ……正直言うと、休み最後の日だし、ダイスケと過ごしたかったから、早く帰ってきた」
寝起きで実家に別れを告げてきた。
「俺も早く帰ってきてくれて、嬉しい」
ダイスケの尖った口が、瞬時に満面の笑みで大きく開いた
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