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8月16日日曜日 2年目

「……ここ、だからこうなるだろ」 「あー、そうか!」  尊敬の眼差しで大介に見つめられ、直弥は照れ隠しに視線を落とす。 「ナオヤさんすげー、やっぱ頭いいなあ!」 「そ、そんな事、ないよ。ダイスケ、お盆前は、先生に何て言われたんだい?」 「あ、あぁー『お前は基礎がなってない』ってさー」  大介は杉崎の物まねをしながら、直弥に伝えた。 「夏休み前、担任にも同じ事言われた……」 「そうか」 「でもさ、ちょっと褒められたんだよ。一学期の初めより終わりの方が、そりゃ大して変わりねーけど成績上がってたんだ。『皆が上げようとしてるところで上がってるのが偉い』って。 俺、自分でも思うけど、バカだし勉強嫌いだけど、したらしただけ、昨日より絶対今日の方が出来てんだ」  問題集にはお世辞にも綺麗とは言えない字で、一生懸命書き込んであった。 「先生に、実家から通えりゃどこでも良いって行ったら”大学も贅沢言わないで、学部の教科有利な所ならなんとかなるかもしれん”って」 「へえ、そうだったんだ。良かったね」  成績が悪いから誕生日遠出しないと、遊びに行かない宣言していたから、もっと酷い状況だと思っていた直弥は驚き喜んだ。  遊びに行かないと言うのも、大介自身戒めのつもりなんだろう。  確かに夏休み、バイトにも遊びに出かけていない。  去年初めて会った頃より、肌の色は褪せている。 「俺、根性だけはあるから。アンタとの将来の為だと思ったら、何でも頑張る。嫌いなべんきょーも」  長めの前髪が邪魔だったのか、おでこを出し、プリントを挟むクリップで髪を留めている。  そんな大介の滑稽な姿は笑いが出ないほど、可愛くて格好良い。  いつもは隠れている額が出ているせいで、精悍な顔が全開の大介に見つめられ。  直弥は見惚れている内に、またキスされていた。 「ナオヤ……」  大介に鼻をつままれ、直弥は呼吸が出来ず自然と口が開く。 「んっ」  うっすら開いた隙に、大介の舌が進入してきて、歯列をなぞられ、舌を捕らえられた。  Tシャツをたくし上げられ、大介の長い指が直弥の肌を直接触れ、体温が上がる。  直弥は快感に頭がぼーっとし、薄っぺらい座椅子だけが二人の体重を支えて (……ア、アカン!! これ、アカンやつ!)  昨日実家で一緒にいた関西の親戚からうつった口調で、脳内で叫び声を上げた。  思考が止まりそうになるのを全力で呼び起こす。 「ダイスケっ!」  このまま流され押し倒されたい衝動が、ぎりぎり崖っぷちでとどまり、握力の無い手で、大介の広い胸を何とか押し返し、寄り切った。 「べ、べんきょう……」 「あ、あぁ……」  唾液で口端を光らせて、二人肩で息をしながら  何事も無かったかのように、数秒前の出来事には一切触れず、問題集とにらめっこした。

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