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8月19日水曜日 2年目

「蒼大!」 「久しぶり、義輝」 「結婚。おめでとう」 「あぁ、ありがとう。ってまだ、してないけど」  杉崎は、久しぶりに友人の蒼大(そうた)=大介の兄に、会った。  結婚することは、前に聞いていたが、諸々の報告兼ねて久しぶりに飲みたいと、蒼大から連絡が有ったからだ。 「良いなあ、夏休みがある人は。羨ましいよ」  平日の夜、サラリーマンの蒼大の時間に合わせて居酒屋で待ち合わせた。 「俺だって、そんな夏休みはないさ。部活の顧問活動って言う名の補習もしてるし、登校日や、出勤当番……」 「そうなんだな。最近忙しくて嫌み言った。すまない。俺が誘ったのに」  蒼大は片眉を上げて笑いながら杉崎に詫びた。 「部活にかこつけた補習って……大介の世話か?」 「いや、勿論部員全員の会さ。だけど、確かに一番世話がやけるな」  そういえば、今日も補習をした。  昼に弟の大介に学校で会って、夜にこうして兄の蒼大に会っている。  一日で兄弟に会っているのも不思議な関係だな、と杉崎は改めて思った。  自分が着任している学校に、大介が入学してきた時も驚いたけれど。  旧知の友人の弟が教え子になった。  当時、若干過保護気味の兄=蒼大から、『くれぐれもよろしく! だけど人知れずに!』と頼まれ、本日に至る。  部活は色々手を助けたが、それ以外は担任になっても他の生徒と分け隔てないよう、付かず離れず接してきた。  過度な干渉もしなかった。  3年になるまでは……  遠野の一件で、少し大介の見方が変わってしまった。自分の中でだけだが。  気がつくと、また思考回路が学校ワールドになっている事をはたと気付き、ネクタイを緩めビールを一気飲みしている目の前の相手に切り替えた。

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