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8月30日日曜日 2年目
「俺は今の、そのままのダイスケが好きだ。俺は、知ってる。お前はバカでも無いし、優しくて、頼れて、精神的にずっと大人で……俺には勿体無い、充分だよ」
直弥は顔を上げ、大介にキスをして頭を撫でた。
「俺なんか、年だけ食って、中身がずっと追いつかないのに……」
ポツリと呟き、ベランダで煙草の煙をくゆらせていた時と同じ表情をした。
「もう二度と、下らない事で謝るな」
「判ったか?」とまた身体を揺すられ、大介はゆっくり頷いた。
「今日……」
大介は直弥に正直に今日の思いを白状してしまおうと思った。嫉妬に狂った自分の行動。
「今日? あ、そういえば、さっきベランダで思い出したんだ」
「何……」
「今日は俺たち付き合った記念日、だよ」
「会った日は覚えてたのに……こんな大事な日、忘れてた」
「え……」
大介は切れ長の目を見開いた。
大事な記念日、遥平の誕生日のインパクトがデカすぎて、かき消されていた。
”忘れてた”と言った直弥も、同じだろうけれど、言葉にはしなかった。
「そうか、今日……」
大介は両手で顔を覆う。
「ダイスケ、」
名を呼ばれ、指の隙間から覗き見た直弥の顔は、笑顔で。
恐る恐る手を解く。
「帰るか?」
「帰らない」
「ご飯、食べる?」
「食う」
「俺らの記念日、お祝いしよう」
「うん!」
二人、よろけながら立ち上がった。
「ダイスケ……来年大学生になれてたら、来年の今日は何処か泊まりに行こう」
(この家から飛び出して?)
「え、良いのか?」
(もう、アイツを待たなくて?)
「『良いのか』って当たり前だろ」
「あぁ、二年目の記念日に……ヤッターー!」
直弥の提案に大介は心から喜んだ。
「なあ、ナオヤさん」
「なんだい?」
冷蔵庫に向かって歩きだした直弥の腕を、大介は掴んだ。
「昔遭った事は消えないけど……新しい事で、上書き出来るな」
直弥が思い出してくれたお陰で、大介はもう毎年恐怖に怯えなくて済む。
記念日が上書きされてゆく日になる。
「あぁ、そうだな。やっぱりお前はバカじゃない」
「ナオヤ、好き。好きだ、好きだ!」
「バカ。飯の用意出来ない……」
大介は空腹で出ない力を振り絞って、直弥の背中を抱き締めた。
ー恐怖の日→記念日おしまいー
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