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8月30日日曜日(寄り道)

 諦めた合図に携帯灰皿へ煙草を捨て、空に向かって最後の煙を細く吐いた時  見慣れた部屋の窓から、見慣れないカーテンがたなびいて、ベランダに人影が見えた。 「直弥……」  日常、感情が波打たない遥平が目を見開いて、無意識に名前を呟いた。  奇跡的に見たかった姿が現れた。  いつも口には絶対しなかったけれど、昔から 見惚れる 物憂げな横顔を俯かせ、直弥は煙草に火を点けている。 (煙草、吸ってるな。ガキと何かあったのか?)  ベランダの直弥を、ただ見惚れ続けて。  今の自分の状態も、直弥との関係も、ガキの存在も……総て忘れて。聞こえるように、名前を呼ぼうとした。 「……なお」 「ダイスケ!!」  その瞬間、ベランダの直弥は踵を返し、笑顔でガキの名前を呼んだ。  後は何を話しているのか、距離的に内容なんて聞こえない。 間もなく直弥の姿は部屋に、消えた。  俺は言いかけた名前を途中で飲み込んだまま、暫く立ち尽くした。 (まあ、思い通りにはなった。今日、姿が見れた……な)  少し笑ってたまたまの、少しだけの寄り道から戻り、約束の店へと向かった。 ー寄り道おしまいー 1%がそこに、居てたって、いうね…

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