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聞いてほしい

水嶋くんがうちの会社にやってきて。 2週間ぐらいたった頃。 蓮川くんに食事に誘われた。 「いいよ。どこ行く?」 そして。 そこには何故か水嶋くんがいた。 「なんっ」 「俺が頼んだ。湊と話がしたかったから」 「ごめん。矢嶋」 蓮川くんは僕にだけ聞こえるように言ってきた。 「あとで辻元さんもくるから」って。 それから10分後 先輩がやってきた。 「辻元さん早かったですね」 「俺んち近いから」 先輩はここから歩いて5分の距離にあるマンションに住んでる。 「話だけどな。湊、俺はあの時。男が男を好きになるのは気持ち悪いんだよって言ったよな?」 「うん」 「俺はお前を気持ち悪いって思ったことはなかった。湊、俺はお前が本当に好きだったんだ」 「あの時。サッカー部の先輩のさらに先輩がさ、湊の家のこと知ってて」 「何で?」 「その人の従兄弟の親が巻き込まれてるって」 「誰?」 「うちの会社にいるぞ!千石紫音。あの人の親がそうらしい」 「あのな、嫌な予感しかしないんだけど」 「え?」 「千石さんと矢嶋付き合っててさ、あこれ内緒な?」 先輩は知らない。 僕たちがふりなのを。 それから。 水嶋くんのあの時の話をした。 千石さんが水嶋くんのサッカー部のOBの先輩で、お父さんをたてに取って脅していたこと。 それを話してくれた。 本当はぼくを嫌っていなかったこと。 あの時のは仕方なかったってこと。 全てを聞いたあと……。 「矢嶋。辻元さんから離れちゃダメだよ?」 「大丈夫。仕事は俺と一緒だし」 きちんと話聞けば良かった。 そしたら。 こんなに拗れることなかったのに。 「俺はずっと謝りたかったんだ!高校の時のことを」 「湊。もう一度俺と付き合って欲しいんだ」 水嶋くんの言葉に瞳に嘘偽りはないみたい。 水嶋くんを前にするとまだ呼吸が苦しいけど。 「……ごめん。ぼくは水嶋くんにそういう感情を今は抱いていないんだ」 「そっか。何かあれば力になるから」 「葉山さんには伝えとくか?」 「葉山さんてうちの?」 「そう。葉山さんは力になってくれる気がするし」 確かに。 葉山さんはいい人だもんね。 月曜日。 葉山さんに話すと……。 「知ってる」って言われた。 「俺の彼氏さ、千石の兄貴なんだよ」 「ホントですか?」 「だから。千石の親も矢嶋の話も知ってた。千石の兄貴、あいつ雨音つーんだけど。レオは恨んでない。恨んでもどうにもできないじゃん?」 「千石はやっぱり恨んでいるんだな」 蓮川くんたちみたいに気をつけろと。

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