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あなたのことが好きです
そして。
それからしばらくして。
何事もなく日々が過ぎた。
「矢嶋、これ。第二に運んでくれ」
課長に頼まれ、書類を葉山さんたちがいる第二企画部へ。
「すいませんー。うちの課長から」
「わざわざありがとう。俺が取り行くのに」
蓮川くんは笑いながらそう言ってきた。
蓮川くんは葉山さんの部下なんだ。
そして。
企画部への帰り。
ぼくは千石さんに呼び止められた。
「千石さん、どうしたんですか?」
「矢嶋に話しあってさ」
千石さんの様子がおかしかった。
本能的に危険だと思った。
でも。
何故か逃げれなかった。
「なぁ、矢嶋。昔、20年前にさ爆発事故あったの知ってるか?とある会社で。それはさその社長の息子のための新薬開発してたんだと。そのせいで沢山のひとが死んだんだ」
次の瞬間。
千石さんは冷たい目でぼくを見下した。
「お前の両親は新薬開発のために沢山の人を巻き込んだ。そう、お前のために、な。俺は許さない!両親を巻き込んだお前の親もお前自身もな」
千石さんはそう言いながらぼくの首を締めてきた。
「千石、さ……」
ぼくは息苦しかった。
どれくらいそうされていたのだろう。
朦朧とする意識の中。
光るものが目の端にうつった。
「親父たちのかたきだ」
戸惑いもなくぼくを刺してきた。
そのあとどうなったか覚えていない。
目をあけると。
先輩と水嶋くんがいた。
「湊。少し我慢してくれ」
「っ……」
なんだろう。
この圧迫されている感覚は。
ぼく、死ぬのかな?
「……と!」
誰。
この声は……。
「湊!」
天国にいるのかな?
死ぬ前に先輩に気持ちを伝えたかった。
まだ、間に合うかな?
「湊!大丈夫だから、な!」
「先輩、、、」
「うん?」
「ぼく、は、先輩のこと、が……す、」
そこでぼくは意識が途切れた。
ぼくは夢をみた。
学生時代の水嶋くんと蓮川くん。
おじさんたちや従兄弟たちの夢。
そして、最後に。
『私たちの分まで幸せになってね』
死んだ母さんたちがそう言ってくれた。
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