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第1話
「――は?海 、お前何言ってるかわかってんの?」
「…あぁ、月 。別れてくれ。」
土下座をしてまで頼み込んで来る海を見下ろす。
いつから?
一体いつから海はそんなことを思ってた?
そんな素振りは見せなかったのに…。
「…好きな奴でもできたのか?」
どんな風に対応すればいいかなんてわからなくて。
茶化すように聞く。
――せめて違う理由にしてくれよ。
「っ…あぁ、できたんだ。」
そう言って顔を赤く染める海。
嘘…俺、海のこんな顔見たことない。
3年も付き合ってて、一度も。
海の告白に返事をしたときも、俺からキスしたときも――
海はこんな顔をしなかった。
幸せそうで、好きで仕方なさそうな顔…。
「俺はもう用無しってことか。…お前にとって俺は遊びで玩具で。だからもういなくなれって?」
「え…ちがっ…」
親に捨てられたとき、俺を支えてくれた海だったから信じてたのに。
海に告白されたとき、信じれなかったのに何回も何回も好きって言ってくれて。
「楽しかったか?お前に縋って生きている俺を見ているのは。お前だから信じてたのにっ!お前なら、俺を捨てないって!!だからっ、だから俺は海に尽くしたのにっ!!やっと、やっと…誰かに大切にされると思った…のに。」
思わず涙が零れる。
泣きたくなんかなかったのに。
こんな、俺を裏切った奴の前で弱みなんて――
「っ…ごめん違うんだって。俺――」
「限界?お前はもう限界?そうだよな、こんな可愛いげのない奴と付き合ったってなんにもないって、絶対いつか無理になるって俺言ったな!?もう、傷つきたくないからって。お前、何て言ったか覚えてるのかよ!?」
涙で霞んで、もう海の顔なんて見えない。
大好きで仕方ないのに。
俺はまだ、海が好きなのに――
「ごめん。…ごめん。」
ひたすら頭を下げてくる海に虚しくなる。
こんなに言ってもダメなんだ。
やっぱり俺は、誰にも大切になんてされないから――。
「そう、やっぱり俺はいらないんだね。」
俺が言うこの言葉の意味を知ってる海に。
最後の足掻きとして言う。
「っ……」
それでも俯いたまま海は何も言わない。
あぁ、やっぱり。
「じゃあ、お望み通りいなくなってあげる。」
そういい残し、海の横を通り抜け玄関に向かう。
微かに聞こえてくる海の声を無視して海の家から飛び出した。
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