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第1話 強気受

「やめっ、ろ……」  海村 有栖(うみむら ありす)はのめるように突っぷす。屈強な肉体にのしかかられた重みで動きは完全に封じられている。絡みついて離れない身体に指先がシーツに縫い留められると裸体が汗で濡れ、腹の部分が自分の先走りの液でしみになっていた。 「ここ、もっと擦って欲しいか? 」  胸の奥底から恐怖が湧くが、肌と肌が吸いついて孔は煌々と濡れていた。皮膚一枚で繋がっているような感覚が襲う。太く脈打つ浅黒い雄を奥深くまで嵌められ、男は乾いた音を鳴らしながら腰を打ち付けてくる。ローションの粘りが男の股間と尻を繋いで、躰が小刻みに痙攣してしまっていた。  悔しい、悔しい……!  自分と同じ歳なのに、どうしてこうも、この男は高慢な態度でいるんだ。だからα(アルファ)は嫌いなんだ。  深く突かれながらも、アリスは漏れでる嬌声を歯で食いしばって止めようとする。 「……んんッ……ぁ……ッ……」 「声、聞かせろよ。聞かせないと、もっと激しくするぞ」  懸命に口を閉じて声を押し殺すが、さらに背中に重みがかかり、口腔をこじ開けるように長い指先が侵入する。男の鼠径部を尻に押し付けられ根元までゆっくりと埋めていくと、太く脈打つ鼓動が腹から伝わり、この男を受け入れている自分が惨めに感じた。ぎゅっと瞼を閉じながら、目尻に溜まった涙がシーツに伝い落ちる。 「……やぁ、ぁ、てめ……ゆるさなッ」 「いい声だな」  男を喜ばせるように、容易く自分の躰は絶頂に達し、突かれるごとに声がでる。心では嫌がりながらも、尻が欲しがるように揺れてしまっていた。  遠のいていく意識に泣きそうになりながら、激しい興奮が躰を襲う。  我慢だ。  ……今だけ我慢すれば夜が終わる。  そう思いながらも、さらに押し寄せる快感の波に支配されてしまう。いつの間にか背中で凌辱する男の動きに意識を手放した。  目を醒ますと朝になり、広々とした部屋いっぱいに朝の光が琥珀色にさしこむ。  隣では幼なじみの瀬谷 水樹(せや みずき)が長い睫毛を揺らしながら寝ていた。  典型的なαである水樹は家柄、容姿、頭脳、財力を完璧に兼ね備えた瀬谷コンツェルンの御曹司である。世界屈指の瀬谷コンツェルンは大日本製糖(現・瀬谷製糖)を中心とする財閥で、一族全員がαだ。名門一家の次期当主である水樹の難点は性格と口の悪さ。――それが身震いするほどアリスは嫌いだった。  だが、世界屈指の御曹司に逆らえるものなど誰もおらず、幼なじみであるアリスもずるずると腐れ縁を繋いでいる。    ぐったりとした倦怠感は抜けきっていない。傲慢で、偉そうで、上から目線の言い方にまたむかむかと腹が立ってきた。  αならα、またはΩと付き合えばいい。なのに水樹は平凡なβの自分にしつこく絡んでは、親に取り入って、仲良くしようとする最低な策士だ。昨日も水樹は自分の親にテストの点数が悪いと告げ口し、『僕がアリスに勉強を教えますから、今日は家に泊めていいですか?』と困りかねた親に低姿勢にて提案した。結局、水樹の広い部屋に泊まることになってしまい、それが人生最大の過ちだった。  βである自分はαとは一生関わりたくもない。αならΩがいる。それかα同士で付き合っていればよいと思っている。それなのに水樹は昨夜ベッドで寝ていた自分に激しいキスをして、同意なしに濡れもしない後孔を犯した。  絶対に許さない。水樹なんて、もう、口をきいてやらん!  水樹が起きる前にそっとベッドから立ち上がろうとするが、腰が立たない。へろへろと全身の力が抜けてしまう。 「……起きたのか?」  水樹(みずき)が目を覚ます。相変わらず寝起きも美丈夫のままだが、アリスは悠然たる態度にわなわなと震えて声が出ない。 「……俺はおまえが嫌いなんだ! いいか、こんなのレイプだ。俺は同意していない!絶対にお前なんか許さない……ッ!」  強くそう言うと身体に響いて、腰が痛い。 「ははは、俺はお前が好きだ。絶対に好きにさせてやるよ」  全然話が通じない。どうしてαはこうも自信過剰で基地外が多いのか。いや、水樹だけなのか。 「αはΩがいるだろ! βにかまうな! いい加減にしてくれ。……俺はβ同士で仲良くしたいんだ。こっちの世界に来ないでくれ」 「じゃあ、お前の世界を見せてくれよ」  水樹は手を引いて身体を引き寄せ唇を重ねた。十七歳とは思えない色香にくらくらきそうになるが、騙されてはいけない。 「んっ……んん、ぁ……」  唇を吸いながら、ひらいた隙間を狙って舌が這入ってくる。歯列をなぞりながら甘い痺れがじんじんと沸きおこりそうになってしまう。 「勝手に線引きするなよ。同じ人間なんだ。俺が誰を好きかは俺が決める。アリス、おまえが好きだ。俺のものになれ」  唇が離れると水樹は満足そうな声で言い放つ。  嫌だ! 俺はβだ。  この最強に近い男に跪くなんてしたくない。ずっと水樹から逃げてきたのに、いまさら好きだなんて遅い。 「嫌だね。断る。今日の事は忘れるからもう二度と俺に近づくな」

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