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第2話 類は友達

「あれ? アリス、顔色悪い? 」  尾上 雅也(おがみ まさや)は登校してくるなり、顔色の悪さにすぐに気づいてくれた。嬉しい。やっぱりこの優しさが心に染みる。  同じβでありながら背はやや高く、おっとりと優しく温和な雅也。幼稚舎から同じ水樹とは違い、中学から編入してきた雅也はすぐに意気投合していまに至る。高校はαのみの特進クラスとβとΩが入り混じる普通クラスに分かれており、雅也とは中学から同じクラスだった。  β同士気が合うが、雅也の方がしっかりして勉強もできる。つまり、頼れるお兄さんの存在で、何かあれば相談し泣きついていた。そばにいて心が平穏と落ち着き、癒される女神だ。 「……色々あってね」 「そうなの? 大丈夫? 熱とかあるなら、保健室で休んだら?」  雅也は心配そうに顔を近づけ、おでこに手を当てる。水樹はこんな事などしない。もし水樹だったら、『移るから近づくな』と無碍に遠ざけるだろう。 「ありがとう。一応、大丈夫。今日ははやく帰るよ」 「うん、何かあったら僕に言ってね?」  雅也、おまえは神なのか?  心の中で泣きそうになりながら、アリスは後孔のひりつくような痛みに眉を顰める。    あれから水樹の屋敷をでて、自分の部屋で土日死ぬほど寝て身体を休めた。水樹から着信とメールがきていたが、全てブロックして電源を切ったままだ。  本当は学校もこないで引きこもりたいが、高校ニ年ともなると流石に受験に影響してくる。嫌々ながらも、重い腰をあげて登校した。 「まーさーやー! ……やっぱり雅也が一番だ。うん、俺、雅也が好き!」 「な、なに!? どうしたの、急に? ……あ、特進クラスの水樹くんがアリスの事心配してたよ? また喧嘩でもしたの? ほら、心配そうに今来てるよ?」  水樹の名前にギクっと身体が揺れる。顔をあげると水樹が教室の入口で立っていた。  もうすぐホームルームが始まる時間なのに、さもこれから話をするぞ、という反省の色すらない。 「アリス、ちょっと来いよ」  水樹の声で一斉にクラスメイトの視線が自分に集まる。綺麗な顔立ちをしたΩまで冷たい視線で自分を睨めつけているように感じた。  じっと自分の席に座ったまま身動き出来ずにいると水樹はツカツカと近づいてきた。 「な、なんだよ……! く、来るなよ! 授業が始まるだろ!」  腕を掴まれ、振り払おうとするが水樹は強い力でアリスの腕を握り締める。 「おい、話がある」 「み、水樹くん、どうしたの? そろそろホームルーム始まっちゃうよ?」  雅也は自分の横で心配そうに水樹の様子を伺い、その場を収めようとした。それなのに水樹は雅也を見下ろし、キッと睨めつける。 「アリスに話があるんだ。来いよ」  α独特の威圧感を増しながら、水樹はじりじりと凄んでくる。 「嫌だね」  ぷいと横を向き、アリスは子供のようにそっぽを向いて水樹を無視した。もちろん周囲の視線はぐさぐさと感じる。嫉妬、怒り、羨望、全てが入れ混ざった感情。  だからβに構わないでくれ!  平凡に生きたいのに、昔から水樹のせいで自分の生活はめちゃくちゃになる。  水樹は舌打ちし、顔を顰めた。 「尾上、悪い。混み入った事情があるんだ。アリスは借りるぞ」 「……えっ? あ、おまっ! 離せよ! やめろッ!」 「ア、アリス、大丈夫?」  不意に宙に浮いたかと思うと水樹は肩に自分を乗せ、抱きあげた。バタバタと足を蹴り付けるが、水樹は動じない。雅也は目を丸くし、心配そうに見上げている。 「アリス、大人しくしろ」  低い声で言いはなち、水樹は教室を出た。出会い頭に担任と鉢合わせ、助けを求めた。 「あ、先生、助けて!」  水樹の肩に乗せられながら、潤んだ瞳を瞬かせる。Ωのような儚げな可愛さはない。だが、そうでもしないと誰も助けてくれない。 「先生、アリスが具合悪いので、僕が保健室に連れて行きますね。いいですか?」  水樹は優しく微笑み、担任は「お大事に…」とそそくさと教室に入って行った。水樹の祖父はこの学園の理事長で、水樹に逆らう教師はいない。  最悪だ。雅也以外、誰も助けてくれない。  こんなことは今日が初めてではなかったが、あまりにも横暴すぎて、αである水樹をさらに嫌いになった。

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