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第20話 愛憎と約束

 その日の夕方、明日は水樹の屋敷を訪れた。  豪華な造りの部屋は相変わらず無駄な装飾に囲まれている。シャンデリアやロココ様式の優美で華やかな家具が配置され、ヨーロッパの貴族のような室内に金額が気になってしまうほどだ。   「……俺に近づくなってことか?」  怒号にも似た低い声音が広い室内に響き渡る。水樹は王様のようにふんぞり返って、ソファに腰掛けて腕を組んでいた。 「そ、そう。て、転校生のし、紫苑が倒れちゃってさ。……ま、雅也が言うには俺が近づいたαのうち誰かの匂いに、は、反応しているみたいなんだ」  しどろもどに水樹の前に立ち、どこぞの発表会のようにアリスは説明をする。アリスは昼休みに雅也に言われた言葉を思い出す。 --------------- 『アリス、よく聞いて。紫苑くんはヒートを起こしていて、もしかしたら原因はアリスかもしれない』 『俺?』 『うん、アリスが近づいたら紫苑君の顔が真っ赤になったのを見て、すぐにヤバイと思ったんだよね。保健室に行くと薬を打って治まったけど、念の為そのまま帰ったよ……』  雅也と弁当を食べながら、紫苑の座席を見つめた。せっかく仲良くなれそうだったのに、暫く休みになりそうだとも聞いた。  雅也と紫苑は保健室へ行き、即効性のある薬を打ってそのまま紫苑は眠ったそうだ。  紫苑は日本に来日してからヒート状態へ変化する頻度が多くなり、薬も慢性化してきたのか効果が薄いという。今回はまだ初期段階で打てたから良かったものの、一歩間違うと大変な状態になっていたらしい。一度ヒート状態になると、一週間は外出禁止となって家に閉じこもり自宅学習となる。 『……あのさ、アリス。……水樹君の匂いなんじゃない?』 『水樹?』 『そう、もしかして紫苑君は水樹君の婚約者じゃないかって噂が出ているんだ。アリス、水樹君のこと、本気じゃないなら無防備に近づかない方がいいと思う。でも、本当に好きだったら、水樹君の気持ちに向き合わなければ駄目だよ?』  雅也はそう言って優しく微笑んだ。それが雅也がアリスへの忠告ともいえる昼休みだった。 -------------------- 「……で、その転校生が俺の匂いに反応しているのか?」 「そ、そう」  他に思い当たるのは門倉、如月の二人ぐらいだ。  べったりと付けられているのは水樹の匂いしかないので、水樹しか思い当たる奴はいない。 男らしく逞しい精悍な肉体と王様のような憮然たる態度に、雄としての匂いは強烈なんだろうなと思いながら水樹を眺める。水樹は怒りを抑えながら何かを考えていた。 「チッ、分かったよ」 「え、嘘! 本当に?」  水樹に理解能力があったのに驚く。大概『知らん』、『聞いてない』、『覚えてない』しか言わないので、珍しく素直な反応に嬉しさが満ち溢れてしまう。 「その代わり、デートしろ」 「は?」 「デートだよ、デート」 「と、登下校デートでいい? 一緒に帰って、そのまま帰宅する感じ……」  どこにも立ち寄らずに真っ直ぐ帰りたいので、水樹の送迎車の車窓から景色を眺めるだけのデートを想像した。てへへとお道化て言うと、水樹は舌打ちをして眉間に皺を寄せる。 「駄目だ。一晩だけ付き合え」  (い、言い方……。本当にこいつは健全な男子高校生なのだろうか。なんだ、一晩というのは。おまえは買春をする変態オッサンなのか)  水樹は獰猛な瞳を吊り上げ、じっと見据えながら怯んだ獲物を逃がすことなく威圧する。 「わ、わかったよ。一晩だけだぞ」 「あとアリス、おまえ、門倉に何かしたのか?」  そそくさと荷物を纏めて帰ろうとすると、水樹に手首を掴まれ、動きを阻まれる。 「……み、水樹に関係ないだろっ……!」 「関係ある。言わないと、犯すぞ」  その言葉に真っ青に倒れ込んだ紫苑の姿がまざまざと目に浮かぶ。 「……制服を貸したんだよっ! 離せ!」 「やっぱりな。あの制服、ケンのか。許せないな」  水樹は掴んだ手首を振り上げて、アリスをベッドに投げ飛ばした。 「な、なにすんだよっ……!」  今日は早々と帰って、途中だったゲームと課題を終わらせなければならない。水樹に構っている暇はない。 「躾が必要だな」  水樹はワイシャツの首元に手をかけると、一気に手を下ろしてボタンを弾き飛ばした。ちなみにシャツは学園仕様で一枚五千円する。今期に入ってすでに五枚は駄目にしていて、ボタンの縫い付けを親から強いられている。  歯形がついた小さな乳首にしゃぶりつかれる。それは獰猛な鮫が肉を喰らいつくようにみえてアリスはわなわなとグッピーのように震えた。 「ひっ、やめっ……!」 「乳首だけでイケるようにしてやるよ。暫く転校生も休みなんだろ?」  両手で水樹を押すが、びくともしない強靭な身体に全身が縫い留められる。 乳輪を吸っては舌で先端を吸い上げて、もう片方の乳首を執拗に抓んで廻している。  びりびりと甘い痺れにむくむくと愚息が反応していく。 「ぁ、みず……んんっ」  乳首を噛んでは、乳輪ごと強く吸われ、アリスは抗うことすら許されなかった。

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