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第23話 勇者の困惑
……あんな小さな乳首初めて見た。
一人残された門倉は静まり返った図書室で、小さく溜息をつく。暖房の暑さは落ち着き、眠気もなくなった。逆に頭が冴えてきてしまい、悶々と考え込んでいた。
あれから時間と待ち合わせを決め、アリスはさっさと門倉を残して自分の教室に向かっていった。
残された門倉はアリスの腫れて見るに堪えない小さな乳首の残像が目に焼きついている。乳輪から先は腫れぼったく、尖ってふっくらとした膨らみには何度も執拗に愛撫されたのか瘡蓋が痛々しく張りついていた。
熟れた果実のような蕾がぷっくりと浮きでて、絆創膏を厭らしく押し出しているように見えた。そんな初めて見る光景に思わず、じぃっとみいってしまう自分がいる。
顔を赤らめるアリスにもっと触れたいという思いが沸き立ち、頑なにその欲望を抑えた。アリスはほどよく筋肉がついている普通の男だ。それなのに妖艶にみえてしまう。こんな姿になるまで水樹はアリスを抱いているのかと想像し、なんとも複雑な気持ちになる。
(なんなんだ、この気持ち……)
門倉は大きな掌で疲れた顔を覆う。
熟れた二つの粒、そしてアリスの言葉が忘れられず、頭にこびりついてしまう。
『俺は水樹に相応しくない』
『そうだよ。βはいつまでもαやΩの間には入れない。それは変わらない。βはいつでもβらしくしていなければいけない。αの下に従い、Ωの邪魔をしてはいけない。つまりそーゆうこと』
下唇を噛んで、そう呟く辛そうなアリスが忘れられない。
どうしてなのか、自分でも分からなかった。
掠れたアリスの甘い声がまだ耳に残っている……。
どうしたんだ、俺。
アリスは男だ。
そして普通の人間だ。
『アリスは俺のモノだ』
水樹が毎日のように言い放つ言葉が頭に響く。
アリスはモノじゃない。
そう、門倉は強く思った。
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