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第25話 貸与と横流し

ーーーーーーーーーーーー     『おひさしぶり』 『なんだ?』     『水樹のうちに行っていい?』 『珍しいな。いいぞ』     『り』  ーーーーーーーーーーーー  以上、水樹へのLINLIN(リンリン)のやり取り終了。  ブロックを外して、メッセージを送信するとすぐに返信が来るのでちょっと気持ち悪い。  アリスがほっとしながら下校すると、校門前で水樹はお約束のように待ち構えていた。 「なっ、はやっ! 水樹、こわっ!」 「おまえがうちに来ると言ったんだろ? ほら、行くぞ。車を待たせているからな!」  横暴ながらいつもと違って、少し顔が緩んでいる。珍しい。ちょっと嬉しそうな水樹が可愛く見えてしまうのは視力が低下したせいだろう。 「わっかった、から! ……離せっ……!」  襟首を掴む水樹からバタバタと逃げて、水樹から離れる。一応、水樹が傍にいても紫苑が倒れないようなので、アリスはある使命の為に頑張っていた。  それは昼休みの弁当の時間だった。 『アリス、このジャージ誰のなの?』  紫苑は水樹のジャージを目の前に提示して訊いてきた。 『えっと、学園の知り合いから借りたんだけど、どうして?』  可もなく不可もなく返答する。ここで水樹と伝えてもよいが、親衛隊Ωの視線が痛く余計な攻撃を防いでおきたい。 『……よかったら、この持ち主、教えてくれないかな』  紫苑は少し困った顔で尋ねた。  前に紫苑がそう言ったのに、水樹の匂いを求めてしまうことに理解が追い付かない。    紫苑がΩだから?  水樹がαだからか?    ――それとも運命の番なのか?  正直、ジャージは汗臭くて良い匂いとは言えない代物である。こんなのが甘い良い香りなんてΩじゃなくてよかったと内心アリスは思ってしまう。 『ど、どうして、そんな事訊くの?』  そう紫苑に訊くと、紫苑が恥ずかしそうに顔を桃色に染める。 『に、匂いが落ち着くんだ。ちょっと恥ずかしいんだけど、その持ち主のモノを集めたくなっちゃてさ。ごめん、気持ち悪いよね……』  紫苑なしゅんと薄い肩を落として、困惑の色を顔に滲ませる。 『ぜ、全然、あ、ちょっと持ち主に訊いてみるよ。なんなら、なんか借りてこようか?』  突拍子もなく、アリスはそんなことを口走ってしまったことに後悔をした。その言葉に紫苑はパアッと小さな顔を豆電球のように輝かせた。 『本当? 嬉しい! ありがとうアリス!』  そう言って、ぎゅうっとアリスを抱き締めてしまう。アリスは紫苑の甘い匂いに包まれながら、水樹の汗臭い私服を手に入れ入れなければないことにあとで気がつく。  それでブロックしたままだった水樹のLINLIN(リンリン)を解除して今に至る。  アリスは水樹の送迎車で運ばれ、また豪華絢爛な部屋へ引き摺られていた。 「……で、用件はなんだ?」  踏ん反り返りながら高そうなソファに腰掛ける水樹を呆れながら眺め、アリスはおべっかを使う。  匂いが一番ついているものを色々考えたが、服しか思いつかなかった。 「水樹のシャツ貸して欲しい」 「シャツ?」  水樹の凛々しく黒い眉がピクリと動く。いままで話したことがない内容だけに怪しまれてるのか、顔は怪訝な顔つきだ。 「うん。ジャージの匂いがなんだか忘れられなくてさ。ほかのシャツもそうなのかとちょっと検証を重ねたいんだ」 「そうか、なら好きなだけ持っていけ」 「ち、ちなみにいま着ている奴を、その、か、借りてもいい?」  まるで変態だ。  水樹から物乞いする日が来るなんて。頭が痛い。  なんで水樹の使用済みのシャツなんて借りなければならないのだろう。 「へぇ、アリスがそんな事をお前がいうなんて珍しいな。俺のシャツが欲しいのか?」  コクコクと頭を上下する。  しまった。余計な事言わずに、クローゼットから漁れば良かったとアリスは後悔した。 「や、やっぱり……」 「なら、膝に乗って、アリスからキスしろよ。そしたらシャツを脱いでやる」 「え……」 「出来ないなら、シャツはやらん」  どうして水樹はいつもクソどうでもいい事を考えるんだ。脳みそが沸いているとしか思えない。半端呆れながらも、水樹の身体を跨ぐように股を拡げてソファに膝をつく。水樹の顔が至近距離で近づくと、屈服している様が嬉しいのか、水樹は口許を緩めて見上げている。  ちゅっ。 「ほら、これで、い、ぃ、ぁ、ぁあ……んん、んー!」  唐突に後頭部を鷲掴みされ、開いた隙間から長い舌が這入る。蛇のように蹂躙しては蠢き、ピリピリとした甘い痺れが口腔内で散った。 「随分と従順だな。俺の事、やっと好きにでもなったか?」  離れた唇を舌先で舐めながら水樹は言った。 「……好きじゃ、んん、ぁん、ぁ……!」 「へぇ、乳首に絆創膏か。……エロいな」  シャツを捲くし上げられ、水樹の指先がぷっくりとしたバッド部分を撫でる。まだ腫れている乳首が敏感に反応してしまう。 「……今日は、し、しない……! に、匂いがうつるだろ!」  ザーメン地獄にされた記憶が蘇る。顔にも身体にも精子を塗りまくられ、帰ってからモツ煮を食べられなくなった。いや、一生ホルモン関係は食べれないと思ったぐらい精子の匂いを嗅ぎ分けられるようになってしまった。Ωでないのにだ。 「別にいいだろ。おまえから甘い匂いがすんだよ。嗅がせろよ」  水樹は捲し上げて露になった肌に唇を当てるとちゅうちゅうと吸った。果汁を吸い上げるように湿った肌を吸われ、水樹の髪が擽ったい。 「……んぁ、あ、ぁぁ、やめ……!」  コリコリと絆創膏の膨らみを指の腹で撫でて刺激される。腰にも大きな掌が当てられて、もどかしさと共に愚息が反応していく様が悲しい。  に、逃げられない……。  このまま水樹との営みを進めたくはない。 「転校生が気になるんだろ? ゴムするからヤラせろよ。シャツ、欲しくないのか?」  見上げながら、満足げな顔で微笑まれる。  な、なぜ?    紫苑へ横流しする為にどうして自分の尻を提供しなければならないのか腑に落ちない。水樹からシャツ一枚借りるのに、尻の孔を貸すなんてあんまりだ。  しかしながらも、甘い痺れと逃げられない状況に呆気なく白旗を上げて屈してしまう自分がいた。対面座位にて水樹のミラクル棒で揺さぶられ、ゲットしたシャツを紫苑に横流しするという最低な行為をしたわけである。

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