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兄貴のほほ笑み2
内なる苛立ちがバレないように、奥歯をぎゅっと噛みしめながら自室に移動。素早く鞄を手にして、リビングを背にしたまま声をかける。
「行ってきます」
僕のかけ声を合図に義母が椅子から立ち上がり、慌てて追いかけてきた。
「辰之、忘れ物はない?」
「ないよ。帰りはいつもどおりになると思う」
しゃがんで靴を履いていたら、いつの間にか兄貴が傍にいた。振り返って目を合わせた瞬間に、後頭部を撫でられる。
「寝癖くらい直さないと、彼女できないぞ」
兄貴に指摘されたことが恥ずかしくなり、その手を容赦なく叩き落とした。きっと頬が赤くなっているであろう。熱くなっているのがわかる。
「兄貴、余計なお世話だよ。自分に彼女ができたからって、自慢するとか最低!」
「えっ? 宏斗に彼女ができたの?」
驚きつつも喜びを隠せない義母の笑みを目の当たりにした兄貴は、赤くなった顔を横に背ける。
「このタイミングで言うなんて酷いだろ。突然家に連れてきて驚かそうと思ったのに」
「はいはい、それはすみませんでした!」
「それよりも辰之、今日はいつもより早く出るのな。学校でなにかあるのか?」
顔を背けた兄貴が、横目で僕を見ながら問いかける。
「友達とコンビニに集合する約束してるんだ。限定品のグッズを買い占めるためなんだけどさ」
「あっそ! 行ってらっしゃい……」
他愛のないことを口にした途端に、背中を向けて右手を振りながらリビングに戻っていく兄貴。この場をやり過ごせたことに、心の底からほっとするしかない。
「辰之、気をつけてね。行ってらっしゃい!」
「うん、じゃあね」
義母に見送られながら自宅を出発した僕の行き先は、とあるところに設置した盗聴器を回収するためだった。兄貴を手に入れるために準備したそれを有効に使うべく、計画は着々と進行していく――。
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