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兄貴のほほ笑み3
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『お母さん、今日遅くなる。友達と勉強することになった』
帰りが遅くなってもいいネタを、昼休みになってから義母宛にLINEを送った。兄貴の頭の中では今朝僕の行動を耳にしているおかげで、いつもどおりの時間に帰宅していることになっている。だからこそ慎重に兄貴のあとをつけて、絶対に見つからないようにしなければならない。
(兄貴は部活が終わったあとに、友達と勉強会の予定。だけどそこは友達じゃなくて、彼女の可能性が高い。学校の図書室はすでに閉まっているから、市立図書館の自習室で勉強をするのか。あるいは――)
こうして頭の中を兄貴でいっぱいにするこの時間が、結構好きだったりする。僕と一緒にいない兄貴の知らない顔を想像するだけでワクワクするし、同時に幸せな気持ちになっていく。
「黒瀬、おまえ昨日ログインしてなかっただろ!」
苛立ちを含んだ友達の声に、一瞬で思考が中断された。仕方なく目の前に現れた顔を見上げる。
「あ~、他のゲームしてたらすっかり忘れて、そのまま寝ちゃった」
「リーダーのおまえがいないだけで、戦闘に無駄に時間がかかるんだから、ちゃんとログインしてくれよな。それとさ――」
他にもぐだぐだ文句を言い続ける友達の口を塞ぐためのアイテムを、必死になって考え出す。
「土屋、お詫びにはならないかもしれないけど」
申し訳なさを表現するために、しょんぼりした顔を作り込みながら話しかけてやった。
「なんだよ?」
「明日提出の数Ⅰの宿題、写していいよ。実はもう終わってるんだ」
休み時間をすべて使ってやり終えた宿題をエサに、友達の機嫌をとることにした。
「早っ、写していいのか?」
「いいよと言いたいんだけど、先に箱崎にノートを貸しちゃっててさ。だけど放課後までには渡せると思う」
「わかったよ。ノート待ってる」
「今日はログインするから、安心してくれ」
いついかなる時も使えるものは、常に用意しておく。それは僕の中の鉄則になっていた。こうしていままで円滑に、友達関係を築いている。そして時には利用させてもらった。
(本人の知らない間にだけどね――)
兄貴を手に入れるためなら、躊躇なく友達だって使ってみせる。
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