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兄貴のほほ笑み5

***  兄貴が部活を終えるまでの時間を使って、この間女子トイレに仕掛けた盗聴器の中身を確認すべく、目立たないであろう図書室の隅の席で聞いていた。 (前々回と前回は空振りに終わったけど、今回はどうだろう……)  期待を胸にイヤホンから流れる女子の会話を耳にしつつ、机の上に広げたノートにその内容を端的に書き記した。僕の姿を傍から見る分には、熱心に勉強しているように見えるだろうな。  いろんな女子からもたらされる噂話や愚痴を聞いている最中に、衝撃的とも言える話は突如はじまった。  早口でまくしたてる甲高い声に反応し、相槌する者は僅かだったが、信じられない内容にめまいがしてきた。どうにもメモする気にもなれず、眉間をつまみながら聞き入る。 『黒瀬先輩をモノにできるまで、間違いなくあと少し。だって私に夢中なんだから』 『イケメンばかり狙って、ホントずるいよね。梨々花が羨ましい』 『梨々花ってば、中学生の彼氏もいるんでしょ?えげつないよねぇ』 『あのコは弟というか、キープくんなんだけどー。でも私を求めてがっついてくるのが可愛くてさぁ』 『それって、ただヤリたいだけじゃん』 『普通はそうやって求めてくるのに、黒瀬先輩は慎重というか奥手というか。私を大事にしてくれるみたいな?』 『奥手すぎるのもねぇ。こっちからガツガツいけないわけだし』 『それはそれでいいんだって。その駆け引きを楽しみつつ、別のところで発散できるわけだしぃ』 『梨々花、また新しいコスメ増えてる。パパ活順調なんだ』 『まぁね。今日は黒瀬先輩と別行動日だから、みんなに奢ってあげるよ』  馬鹿女の言葉に歓喜の声をあげた女子がいる時点で、めまいが頭痛に変化した。なにも知らない兄貴が不憫でならない。 (箱崎から聞いた情報の裏がとれた。ほかの女子が馬鹿女の噂をしないのは、こうして餌をまかれているせいだったとは。だけど人の口を完全に塞げないことまで想定していないのは、まんま馬鹿女というべきか)  スマホで時間を確認すると、あと10分ほどで部活が終わる時間になっていた。無表情で机の上のものを片付け、鞄を肩にかける。周囲に視線を飛ばしても、図書委員以外誰もいなかった。  静寂に包まれた場所から、しんみりした気持ちを引きずりながらあとにしたのだった。

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