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兄貴のほほ笑み9
コンコンコン!
遠慮がちなノックが自室に響いた。
「辰之、ちょっといいか?」
扉一枚隔てた向こう側からかけられた兄貴の声に、苦笑するしかない。
上は制服のワイシャツに、すっぽんぽんの下半身は半勃ちでてらてらに濡れた状態。そして視線の先にある床は、白濁で汚れている。このまま扉を開けて兄貴を部屋に入れてしまうと、オナっていたのをバラすことになる。
(ズリねたが兄貴なんて、口が裂けても絶対に言えない――)
「辰之っ!」
「さっきのことなら、図書館で注意をして終わったし」
「謝りたいんだ……。あのタイミングで俺に注意したのは、きっと大変だったろ」
しょんぼりした兄貴の声に、なぜか僕の下半身がピクリと反応した。
「大変でもなかったけどね」
「辰之、怒ってるから開けてくれないんだろ?」
「今いいところだから、手が離せないんだって」
「やっぱり怒ってる……」
「怒ってないって、本当に手が離せないんだ。ご飯食べ終わったら兄貴の部屋に顔を出すから、それまで話は待っててほしい」
僕の部屋の隣にある兄貴の部屋は、この家の中で一番奥まった場所にあり、余程大きな声をあげない限り、他の家族に気付かれることはない。
「わかった、待ってる……」
名残惜しさを示すためか、扉を軽く殴ってから兄貴はどこかに立ち去る。僕の背中を押すその音が、兄弟の間柄を壊す音に聞こえたせいで、耳から離れなかったのだった。
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