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兄貴の困惑2
僕が想像した若林先輩の内面をズバリと告げたら、驚いた顔で痛いほどの視線を送る。
『どうしてそう思う?』
『だって、現役時代は兄貴とレギュラー争いをしたでしょ? イケメンで才能あふれる兄貴に、嫉妬していたんじゃないかと思ったのと、さっきのふたりのやり取りを見て直感したんだ』
『さっきのやり取りなんて、ちょっとしか喋ってないだろ。それだけで俺が黒瀬のことを嫌ってるなんて思えるとか、どう考えてもおかしいって』
視線を宙に彷徨わせながら、あからさますぎるくらいに声が上擦っている若林先輩の様子は、僕の直感が当たった証拠だった。
『嫌ってる相手の弟をヤることで、少しでも優位に立てると思ったから引き受けたんでしょ。僕は別にかまわないけどね』
歪んだ笑いを頬に浮かべて堂々と告げたら、若林先輩はボタンから手を放して立ち上がる。
『黒瀬のヤツ、俺を罠にはめようとしたんじゃ――』
『違うよ。兄貴は純粋に僕に嫌われたいだけ。兄貴だけじゃそれができなかったから、若林先輩を使ったんだ。人の手を使うことによって、卑怯な兄を演じたかったんだろうね』
言いながら両目をピアノの裏に走らせる。マスキングテープで固定された小さな物体は電源が入っているのか、赤く光っていた。
『辰之くんはそれを知っていたのに、わざと捕まったのか?』
『僕としてもこのまま、兄貴に嫌われてばかりもいられないんで、違う手段を駆使しようと思ってね。若林先輩、僕と手を組まない?』
うまく誘いつつ、ピアノの裏を顎で何度も指した。僕の動きを訝しく思った若林先輩は、屈んでピアノの裏に頭を突っ込む。
『うげっ! 盗聴されてるじゃん!』
『若林先輩じゃなかったんですか』
『こんなことするわけないじゃん。ヤバかった……』
若林先輩はそれを外して、目の前に見せてくれた。わざわざ回転させて見せつけてから、電源を探してオフにする。
『てっきり若林先輩だと思ったのに。僕をヤった証拠の声を、兄貴に聞かせるために仕掛けたんだと』
『確かに。それはそれでアリだな』
持っていた盗聴器を床にポイすると、勇んで僕の躰に跨った。若林先輩の舐めるような視線を刺激する感じで、上半身をくねらせる。
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