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兄貴の困惑6
先に入室した若林先輩が僕に抱きつこうとしたが、素早く身を翻して山のように積まれている教材の隙間に視線を飛ばしてチェックをはじめた。
「辰之くん、なにをやってるんだ。俺の相手をしてくれ」
「少しだけ待ってください。この間のように盗聴器を仕掛けられていたら、ふたり揃って誰かに脅されるかもしれないんですよ」
節操のなさにうんざりしつつ、たくさんの教材を見渡しながら盗聴器を探していく。
僕なりにしっかり注意をしたというのに、若林先輩は探し物をする僕の背後から両腕を伸ばし、躰をまさぐりながらうなじにキスを落とした。ぞくっとする唇の感触に、頭を振ってやり過ごす。
「辰之くんとなら、どんな噂をされてもかまわないけど」
「あんな派手な呼び出しされた時点で、尾ひれがついた噂をされそうですけどね。ンンっ!」
若林先輩のいやらしい手の動きで感じてしまい、探し物をする集中力が一瞬で削がれた。
(くそっ! 大事なときだっていうのに、敏感な自分の躰が疎ましい……)
「いい匂い。こっちを向いて」
首筋を執拗に責めることに飽きたのか、僕が振り返る前に強引に振り向かせ、ぐぐっと顔を寄せる。
「キスはダメですよ!」
目の前に迫った唇を、右手でやんわりと塞いだ。油断も隙もありゃしない。
「俺、キスはうまいよ。挿れたくなるくらいに、感じさせてあげる」
キスを強請っているくせに僕の尻を揉みしだく感じで、念入りに両手を使って撫でまわされた。
「だったらなおのこと、遠慮させていただきます」
「ふーん。辰之くんがそういうつもりなら、俺にも考えがある」
含みのあるまなざしに嫌な予感しかしない。黙ったまま若林先輩の唇から、静かに手を退けた。
「辰之くんとのデートは、明日のこの時間だろ?」
「はい、そうですけど……」
「キス以外は、なにをしてもいい約束だったよね。だからさ――」
わざわざ耳元に寄せて楽しげに語られたセリフの続きに、顔を歪ませるしかない。
若林先輩は、告げられた言葉に絶句して固まる僕のワイシャツのボタンを数個だけ外し、片手を忍ばせて胸の頂きに触れる。
「辰之くんとの短い逢瀬の時間を、俺なりに楽しませてもらうから」
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