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弟の悲しみ6

(――俺に気にしてもらうため?) 「好きなヤツと一緒にいれば、自分を見ていないことくらいわかるさ。俺の顔を突き通して、違う誰かのことを想ってるってな」 「でも俺は辰之に、大嫌いって言われてて……」 「嫌いきらいも好きのうちっていうだろ。黒瀬はそんなことも知らないのか」 「だけど――」 「しかも大嫌いと言われたんだったら、大好きになるよな。あーあ、マジで羨ましい」  語尾にいくに従い、震え声になった若林先輩に、どうにも言葉をかけづらい。まぶたを伏せながら、直視される視線を外した。 「黒瀬急ぐんだろ、さっさとどこかに行けって」  突然の大きな声に助けられたので、若林先輩に背を向けながら廊下を駆け抜けた。 「兄貴……」  走る振動で意識が戻ったのか、辰之が掠れた声で呼びながら両腕を俺の首に絡める。 「辰之、もう少しだけ我慢してくれ。1階にある、バレー部の部室に行くから」 「兄貴ごめんね。僕は」 「いいから。ぜんぶわかってるから。しっかり俺に捕まってろよ」  ひとりの人間として辰之と向かい合う――若林先輩のアドバイスが、ずっと心に引っかかったままだった。兄弟じゃなく、ひとりの男として辰之を見たとき、自分の気持ちの変化を感じ取ろうとしてみる。  そこに答えがあるような気がしてならない――。

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