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兄貴の悦び5
兄貴の顔が近づいてくることでキスされるのを察し、慌てて瞳を閉じた。押しつけられる唇は、軽く触れただけで終わったけれど、僕から強引にキスをしかける。
「ん、うっっ!」
鼻にかかる兄貴の甘い声を、もっと聞いていたい。
「たっ辰之、もっ…やめっ」
「やめたくないよ、兄貴を僕の虜にしたい。僕だけを見て、好きでいて。ずっと傍にいて、お願い……」
兄貴は無頓着なところがある。自分がどれだけイケメンでモテるか、さっぱりわかっていないこと。隣でそれを垣間見る僕の複雑な気持ちなんて、全然わからないだろうな。
「俺は辰之をずっと好きでいるよ。こうしているのも、抱く以外におまえを感じることができるのを、いろいろ模索しているからなんだぞ」
「模索するのはいいけど、ほどほどにしないと、僕の欲求不満が爆発するかもしれない」
「アハハ……。部室では俺が爆発しちゃったもんな。躰、大丈夫か? 辰之が気を失ったときは、肝が冷えまくった。ヤりすぎたってさ」
僕がクスクス笑いながら本音をぶつけると、兄貴は困ったように頭をかいて微笑んだ。和やかな雰囲気にのせて、あのときのことをさらに突っ込んで問いかける。
「気持ちよかった?」
「ん~、潮吹きしてるときより、イったときのほうが好きかも。締めつけ方が微妙に違うんだ」
「まだ一緒にイったことないよね」
「俺としては、大好きな辰之をイカせることに全力だから。イく瞬間の顔、すっごく可愛いんだ。ずっと見ていたいと思うくらいに」
耳元で告げられたセリフの返事をしようとしたら、抱きしめる兄貴の両腕が痛いくらいに僕を締めつけながら、顔がぎゅっと押しつけられた。なんていうか小さな子が抱っこしている、ぬいぐるみになった気分。
「兄貴ってば……」
以前の僕ならこんな愛情表現よりも、肉体関係を伴うものを欲していた。兄貴とヤりたくて堪らない気持ちのほうが強かったはずなのに、こうして甘やかされていると、それもアリだなと思えるように変化しつつある。
「辰之大好き」
この幸せを守るために、僕は行動しなければならない。まずは今回のことで協力してくれた若林先輩に報酬を与える。そしてもうひとつ――。
「僕も宏斗兄さんが大好きだよ」
兄貴を狙っているであろうとある人物に釘を刺すことを、抱擁されながらしっかりと考えたのだった。
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