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兄貴の悦び6

***  若林先輩にきちんと報酬を渡すため、昨夜LINEで打ち合わせした。  次の日の中休みに、同じフロアにある教材室で待っていると、廊下を走る靴音がどんどん近づいてくる。慌ただしいその音に呆れて、苦笑いを浮かべたタイミングで、勢いよく扉が開かれた。 「お疲れ様、若林先輩」 「辰之くん、黒瀬と両想いおめでと。報酬、本当にいいのかよ?」  息を切らしながら扉を閉めて僕に近づく若林先輩に、会心の笑顔をみせた。 「当たり前でしょ。若林先輩の説得のお蔭で、僕らは両想いになれたんだし。でも全部はあげられません、時間がちょっとね」 「それって、どこまで――」  生唾を飲んで僕に手を伸ばした若林先輩に、スマホにつながっているイヤホンを押しつけた。 「実際に聞いてみてよ。僕の喘ぎ声がすべてを語ってる」  弾んだ声の説明を聞くなり、慌てて両耳にイヤホンを装着し、音が聞こえるのを待つ若林先輩の顔が、すっごく面白い。再生ボタンをタップしてそれを聞かせた瞬間に真っ赤に頬を染めて、恥ずかしそうに口元を押さえた。 「す、すげぇ…黒瀬のヤツご褒美とか言って、ちゃっかり辰之くんにむしゃぶりついて」  あのとき兄貴にされてることをわざわざ実況したのは、このためだった。ブレザーのポケットに忍ばせたスマホから録音した。  以前音楽室での行為を録音したことにより、若林先輩がそっち系に目覚めたのがわかったので、あえて今回の報酬にしてやった。 「辰之くん、俺とシたときよりも感じてるだろ。声がマジで可愛いしエロい!」  ただし、報酬は兄貴にフェラされてるところまで。今後なにかあったときの報酬として、残りの声をストックしておこうと中途半端にブチ切った。 「辰之くん、俺と」 「絶対にしないよ。最初からそういう約束だし、もし手を出したら音楽室の音声を公表して、若林先輩の将来にキズを――」 「ごめんごめん、冗談だよ……。おっかない顔で怖いこと言わないでくれ」  睨みながらぴしゃりと言い放った僕に、若林先輩はわざとらしく怯えた顔をして、教材室の隅っこに逃げる。距離をとってくれたことで、自動的に己の身の安全が確保された。 「若林先輩、LINEに音声を送っておくね。コレの続きはあるんだけど、僕になにか問題があって、助けてほしいときにプレゼントするから」 「わかった。必ず手を貸すから、遠慮なく言ってくれ」  こうして、もしものときの助っ人を確保した僕は、次に兄貴を想う人物と接触することにした。

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