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兄貴の悦び7

***  一緒にお昼を食べようと、僕から進んでその人物を誘ったら、ソイツは二つ返事でOKした。晴れ渡る空が見える屋上に向かって階段を昇る僕の隣で、笑いながらついてくる。お弁当を食べ終えたらはじまる、僕からの糾弾を知らずに――。 「黒瀬とこんなふうにふたりでお昼を食べるのって、久しぶりになるかもな」 「そうだね。いつもだったらギルドメンバーで顔を突き合わせながら、ゲームの話をしているし」 「アイツら、黒瀬と話したそうにしてたのにいいのか?」 「毎晩ゲームでチャットしてるのに、わざわざ学校でしなくてもいいと思うよ」  日の当たる場所に設置されているベンチに座ると、ほのかな暖かさを感じた。そんな和やかな雰囲気の中で、互いの弁当に舌鼓を打つ。今日のテストで頑張れるようにと、お母さんが僕のために大きなハンバーグを作って、弁当箱のど真ん中に入れてくれた。 「あのさ黒瀬……えっと」  箸を使ってハンバーグを半分にぶった切り、口に突っ込んだ瞬間に話しかけてきた。 「んぅ? なあに?」  緊張感を孕んだ声が耳に聞こえたが、なにも知りませんというふうを装い、ハンバーグを咀嚼しながら返事した。 「どうして俺だけ誘って、一緒に弁当を食べようって思ったのかと……」 「ん~、ふたりきりっていうのも、たまにはよくないかと思って誘ったんだ。箱崎には、いろいろお世話になってるしね」 「そんなに世話してるつもりないけど……」 「本人にその自覚がないってところが、箱崎らしいというべきなのかも。はじめて逢ったときのことを思い出すよ。こうやってふたりきりで話をしてるとさ」  弁当に入っている人参のグラッセに口をつけつつ、青空を眺めた。  箱崎と出逢ったのは、こんなふうに青空が眩しく見えた4月の入学式だった。お互い席が離れていたけれど、クラスでおこなった自己紹介で、中学時代にバレー部だったと言った箱崎に興味を抱き、休み時間に僕から話しかけた。 『箱崎って、高校でもバレーをやるつもりなのかな?』  出逢い頭、いきなり部活のことについて問いかけた僕を、箱崎はアホ面よろしくぽかんとした顔で見つめる。ひとことも発しない箱崎に、僕はしまったと思った。自分の名前を名乗らずに馴れなれしく話しかけたことを、もしかしたら怒ってるかもしれないって。

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