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兄貴の悦び8

「唐突にごめん。僕、黒瀬辰之。ひとつ上の義理の兄貴がここのバレー部にいる関係で、箱崎に声をかけたんだけど……」 「…………」 「箱崎、もしかして怒ってる?」  固まる箱崎に顔を少しだけ寄せたら、ぶわっと顔を赤らめながら慌てて席を立った。その勢いは椅子を倒すくらいに。その物音のせいで、クラスメイトの視線が僕らに集中する。入学式早々に喧嘩をはじめたんじゃないかという、疑惑の視線をモロに浴びてしまった感じだった。  突き刺さるような周りからの視線にいたたまれなくなりかけたとき、箱崎は倒した椅子を急いで直しながら、やんわり声をかけてきた。 「黒瀬、悪い。怒ってないから、全然! ちょっとビックリしただけ。考えごとをしててさ」  わざとらしく大きな声で言い放ち、小さく頭を下げる。その様子で、クラスメイトの視線から解放された。 「そ、そうだったんだ。僕こそいきなり声をかけてごめん」 「黒瀬のお兄さん、バレー部なんだ。もちろん、ここでもやるつもりだよ。そのために受験したんだし。お兄さんの話、もっと聞かせてほしいな」  そうして兄貴の前情報をしっかり仕入れた箱崎は、兄貴と仲良くなった。僕と同じクラスメイトだからという理由だけじゃなく、なんとなくふたりそろって、僕の話をコソコソしているような気がときどきしていた。 バレー部に顔を出した際に見る、兄貴と箱崎の表情がそれを物語っていたから――。  まだ食べかけだというのに、箱崎はさっさと弁当をしまって小脇に置く。どこか決心めいたものが、まなざしに表れているように思えた。 (これはさっさとカタをつけたほうが、お互いよさそうだな――)  残ったハンバーグを口に放り込み、僕も弁当を片付けた。 「箱ざ――」 「黒瀬、若林先輩と本当に付き合ってるのか?」  話を切り出しかけた瞬間、箱崎が個人的に気になっていたことを口にする。僕は一旦唇を引き結んでから、息を吐き出すように言葉を発した。 「あれはフェイクだよ。僕が付き合ってるのは」 「黒瀬先輩だろ? 傍で見てたらわかるって。ふたりとも前とはなにか違うし。気づかないほうが変だと思うけどな」

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