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兄貴の悦び11
兄弟以上の間柄になれないと、最初は諦めていた。好きになった時点で多くを望めなかったからこそ、諦める気持ちが大きい分だけ、兄貴に手を出そうという気力すら沸かなかった。
それなのに彼女ができたことを知った瞬間から、嫉妬という感情が芽生え、それを意識しないように抑え込もうとしたのに、今まで我慢した感情と嫉妬心が一体化した瞬間、抗えない感情が全身を包み込んだ。それが僕を突き動かす原動力に変わった。
絶対に誰にも渡したくない。兄貴は僕のものって――。
「箱崎悪いけど、兄貴を諦めてくれ……」
執着心を含んだ僕の声が、箱崎の耳にどんな感じで届いただろうか。
「えっ?」
「僕はこのまま兄貴と付き合っていくし、兄貴が心変わりしないように、努力して付き合っていくつもりだから」
「ププッ、くくくっ…アハハハ!」
僕なりにちゃんと宣言したというのに、なぜだか箱崎はお腹を抱えながら大笑いする。目には涙を浮かべるくらいに。
(おかしな話をしたつもりはないのに、箱崎の爆笑の意味がさっぱりわからない――)
肩透かしを食らってぽかんとする僕の背中を、ゲラゲラ笑う箱崎が何度も叩く。まるで一緒に笑えと強要しているようだった。
「黒瀬ってば頭の良さが、悲しいくらいにアダになってるよな。悪い、笑いが止まらない……」
「なんなんだよ、もう!」
「つまり、こういうことさ」
背中を叩いていた手が僕の首を後ろから鷲掴みするなり、箱崎の顔が一気に近づく。避ける間もなく、唇を奪われてしまった。
「は…こざ、き?」
触れるだけのキスはすぐに終わったが、箱崎の顔が間近にあった。近すぎてボヤけるくらいの近距離をなんとかしたいのに、箱崎に掴まれた首がまったく動かせない。これじゃあまた、唇を奪われてしまう恐れがある。
両手で箱崎の上半身を押したが、部活で鍛えている相手にはまったく通用するはずもなく、反発する力を直にてのひらで感じた。
(ヤバい、このままじゃ――)
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