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特別番外編【Voice9】
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若林先輩といざこざがあった後、表面上は平穏な日々を送ることができた。個人的にめんどくさいのは、話があるとしつこくLINEがあったり、休み時間に奇襲をかけられて辟易していることだった。
(今さら、なんの話をしたいんだっていうんだか。若林先輩のことだ、どうせくだらない内容だろうな)
部活が終わり、疲れた躰を引きずるように歩いて、ふと気がついた。
「ヤバっ、スポドリのケース!」
着替えの邪魔になるため、ロッカーの奥にぶち込んでそのままにしているのを、下駄箱の前で気づいた。若林先輩と顔を合わせたくなくて、逃げるように帰ったため、とんだ失態をしてしまった。
「マジでついてないな、もう!」
苛立ちで疲れが吹っ飛び、軽快な足取りでバレー部の部室に向かう。やれやれと思いながら扉に手をかけて開けた瞬間、中から人の気配を感じた。声を落としながら話し込む様子で取り込み中だったら悪いと考え、隙間を少しだけ開けて部員の状況を窺った。
「お願いだよ、兄貴。あとちょっとだったんだ」
耳慣れた黒瀬の声で、中にいるのが黒瀬先輩だとすぐにわかった。
「クラスで三位の時点で、俺との約束はなしだよ。次回頑張れ!」
(ゲッ! もしや今回の試験のことだろうか。結構難しくて、俺はいつもより順位を落としたというのに、黒瀬はクラスで三番だったんだ。すごいな!)
「だけど学年は、条件をクリアしてるんだよ。ちょっとくらい、僕のお願いきいてくれてもいいんじゃない?」
「両方クリアしなきゃ駄目」
「え~っ、必死で頑張ったのに。兄貴に夜這いしてほしかったから、いつも以上に頑張ったんだよ」
俺は慌てて口元を押さえた。黒瀬の爆弾発言は、マジで心臓に悪すぎる。義理の兄に夜這いしてほしさに試験を頑張るなんて、普通はありえない。というか、そんな条件を出した黒瀬先輩も、正直どうかと思える。
(しかし黒瀬が絶対頑張れそうなモノをぶら下げるあたり、黒瀬先輩のしたたかさを感じるな)
「辰之、帰るぞ。いつまでも俺にくっついでないで離れろ」
「今しかくっつけないじゃん。これから兄貴は塾に行っちゃうし、家に帰ってきても兄弟として接しなきゃいけないし」
黒瀬のワガママの可愛さに、頬が緩んでしまう。黒瀬先輩の立場なら、間違いなく甘やかしてしまいそうだ。
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