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特別番外編【兄貴の愛情の表し方】

♡***♡***♡ ※特別番外編【Voice10】で、お兄ちゃんにバレー部の部室から追い出された日の夜のお話になります。 「どうして僕がいちゃ駄目なんだよ! 箱崎は僕の友達だっていうのに……」  母親に「ただいま」とひとこと告げて、すぐに自室へ引きこもった。持っていたカバンを怒りのままに、椅子に向かって放り投げる。  結構すごい音がしたというのに、リビングにいる母親がスルーしてくれたことに安堵する。ただいまと挨拶した、僕の声色が暗いものだったので慮ってくれたのだろう。  そんな見えない優しさを感じても、心の底から湧き上がるイライラは解消されなかった。  部室から僕を追い出す兄貴のてのひらを、背中がしっかり覚えていた。早く出て行けと言わんばかりのそれに、胸が張り裂けそうなくらいにキリキリ痛む。  僕が出てから、あのあとふたりはなんの話をしたのだろうか。話だけで終わることを頭ではわかっている。それなのに、モヤモヤが消えてくれない。兄貴を信用していないわけじゃないのに、箱崎が持っているようなキラキラしたものを、地味な僕が持っているわけがなく。そのせいで、兄貴を惹きつけておくことができない気がした。 (僕よりも手足が長くて端正な面持ちをしている箱崎に、兄貴がフラフラ~と手を出してしまったら――) 「そんなこと、あるわけないのに!」  浮かんできた卑猥な妄想を払拭すべく、頭を激しく振ってから手早く室内着に着替えた。学校での出来事を思い出さないように、クローゼットの中へ制服を乱雑に放り込む。  楽しみにしていたご褒美がなくなったので、次回のテストに向けて勉強しなければならない。そのことを何度も復唱して、余計なことを考えないようにした。前回のテストのように、ご褒美を目の前にぶら下げておけば、否が応でも集中力が増す。  兄貴が箱崎を抱きしめながら熱いキスを交わしたり、尻を揉みしだいたりなんていう、具体的な映像が流れないように、そりゃもう必死こいて勉強にいそしむしかなかった。

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