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特別番外編【兄貴の愛情の表し方10】

「濃くてにがぁいコーヒーに、ミルクと砂糖をたっぷりいれたヤツ」  意味深な流し目で僕を見つめる兄貴に、頬が熱くなってしまった。 「あらあら、辰之はコーヒーが飲めなかったはずじゃなかった?」 「あ、ぁ兄貴が淹れてくれたのは、結構美味しかったから。おかげで夜遅くまで頑張ることができたし」  しどろもどろに答えると、母さんからは見えないことを言いことに、隣から兄貴の手が伸びてきて、僕の腰をいたわるように撫で擦る。あたたかなぬくもりを布越しに感じるだけで、兄貴の思いやりが伝わってきた。 「さすがは俺の弟だよな。最後まで偉かった」 「ぶっ!」  飲みかけていたコーンスープを、思いっきり吹き出しそうになり、目を白黒させた。義母は目の前に駆け寄り、ふきんを手渡しながら声をかける。 「ちょっと辰之大丈夫?」 「大丈夫。兄貴に褒められると思わなかったから、ちょっとビックリしただけ……」 「褒めるに決まってるだろ。また差し入れしてやる、頑張れよ」 (まったく、ナニを頑張ればいいのやら――)  吹き出したものはなかったものの、義母がふきんを用意したこともあり、手持ち無沙汰を解消すべくテーブルをふきふきした。 「だったら僕も、兄貴に差し入れしてあげるよ。なにがいいかな?」  このまま兄貴にやられるのも癪に障るので、動揺を隠すようににこやかに訊ねた。義母の手前、兄貴が卑猥なことを強請ることはないだろう。 「そうだな、辰之が丹精込めて濃いめに淹れた紅茶に、ミルクをたっぷり入れたミルクティーがいいな。砂糖の代わりに愛情を込めて」 「ぁ、愛情……?」  兄貴から強請られるものの大きさに、心底困り果てるしかない。僕はどうやって、愛情を示せばいいのやら。 「宏斗と辰之は、本当に仲がいいわね」  顔を見合わせる僕らを散々眺めた義母は、キッチンに移動した。 「兄貴、なにを強請ってるんだよ」  文句を言った瞬間に腰を撫でていた手が尻に移動し、卑猥なまさぐり方で触れる。昨夜の熱が再燃しそうになり、奥歯をぎゅっと噛みしめて表情に出さないように我慢した。 「辰之のココ、スポーツをしていないおかげで、綺麗な形なんだよな。俺、結構好きなんだ」 「食事中だよ、落ち着かないからやめて」 「食事中じゃなかったらいいんだ?」  ニヤニヤしながら僕の顔を見つめる兄貴が、憎らしいことこの上ない! 問答無用でお触りする手の甲を抓り、兄貴に戻してやった。 「TPOくらい、ちゃんとわきまえてほしいんだってば。もちろん学校でもだよ」 「はいはい。誰かに見つかって、ツッコミ入れられたらめんどくさいもんな」 「…………」 「ちゃんとわかってるって。辰之のその顔を見れば」  横目で兄貴の様子を窺っていたら、不意に告げられた言葉。その意味がさっぱりわからなくて、首を傾げるしかない。動きを止めたままでいる僕を尻目に、さっさと朝ごはんを食べ終えた兄貴は両手を合わせて、きちんとごちそうさまをした。

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