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何で授業が始まる前に疲れなきゃいけないんだ。全力で唇洗ったから冷たいし寒いし唇ヒリヒリするし、最悪なことこの上ないな。
授業受ける気力も根こそぎ持ってかれたし、まぁいいや。寝てしまおう……。
おやすみ。すやぁ……
「……んっ、ふっ…ちゅ…」
……ん? なんだ、このふにふにさわさわしたの。気持ちいい、でもどっかで感じたことのある感触だな。
「…はっ…れろ…ちゅ、くちゅ…」
あれ? 今度はぬめったものが蠢いているぞ。ナメクジ? いや、それにしたら甘い。──甘いってなんだ?
「……ん」
薄く瞼を持ち上げると、視界がぼやけている。何かキラキラ光るものが目の前でチラついて、ってあれ間宮?
「!!」
カッ!と目を見開く。完全に目が覚めた。これ間宮だ!完全に目が覚めた! 間宮何してくれちゃってんの!?
「てっ、まひ…んぐっ!?」
ガッと頬を両手で押さえ込まれて、さっきよりも深く遠慮のなくなった舌が口の中に入ってくる。
なにこいつ、なにこいつ!?
てか、意外に力強っ…! 細い腕してんのに全然動かない。ガタガタと机が動き、椅子から落ちそうだ。
「んっ! ぐっ、や…やめろって!!」
「いっ…!」
間宮の後ろ髪を引っ張り、ようやく引き剥がすことに成功した。離れた唇から糸が引き間でプツリと切れたのを、言い知れぬ嫌悪感が背筋を這う。
はぁはぁと肩で息をし、目の前で同じく息を乱している間宮を睨みつけた。ぐいっと濡れた口元を袖で拭う。
「……お前、何がしたいの」
「エマの唇がいつもより赤かったから、治してあげようと思って」
「いらん! ふざけんなよ、一度ならず二度までも。それにこんな人がいるところで……って、いない!?」
「ああ、次移動だからね。起こしてあげようとも思ったんだよ」
「普通に起こせよ……いや、お前には起こしていらん」
良かった……。こんなところ、人に見られたらどう思われるか。
「順番的にね、次はエマなんだ」
「………は?」
「ほら、モブ山の次はエマでしょ」
何言ってんだこいつ。さっきからの行動といい、若干サイコパスだろ。怖いわ。
「言ったじゃん俺。クラスの全員と寝るのが目標だって」
満面の笑みでさらっと言う間宮に、本格的にやばいものが感じ取れる。
「あ……あの中に俺も入ってたのかよ」
「うん」
目の前がクラリとした。最悪だ、このビッチと同じクラスになった時点で俺の運命は決まってたんじゃないか。
「……なぁ、一つ聞いていいか。間宮よ」
「うん。なに?」
「お前、何座だ?」
「え…何座って、星座の?」
「ああ」
俺の質問に怪訝そうな顔をする間宮。俺は後ろ手で筆箱を掴み、真摯に間宮に向かい合う。
「……蟹座、だけど?」
ああ、やっぱり。
もう俺はハハッ、と力無く笑うしかなくて、ぎゅっと筆箱を握り締めると──脱兎のごとくその場から逃げ出した。
「あっ、待ってよ!」
「怖い怖い怖い!! 誰か助けてください!!」
もうこれからあの占いは絶対観ない。俺は心にそう決めた。
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