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1.1st side 椎名 円

俺、椎名円(しいな まどか)。高校三年、ピチピチの17歳! 都内の公立高校に通う至って普通のどこにでもいる男子生徒でございます。 しかし、そんな俺にも恋人がいまして。今日はその恋人と付き合って三年目の記念日なわけなんですよ。俺は恋人のためにケーキを焼いてプレゼントも用意し準備は万端。付き合いたての頃のように緊張しながらも浮かれ足で恋人の家にやってきました。 カップルの三年目は色々と危機と言いますが、ご心配はありません。なぜなら俺たちはラブラブだから! と、リア充気取りで扉を開いたが最後。 「あっ…アンッ、だめっ…んんッ……!」 聞こえてきた嬌声に、俺のこの初々しい気持ちは完膚なきまでに打ち砕かれました。 「何さらしとんじゃゴラァァ!!!」 玄関入ってすぐ聞こえてくる声は居間から。すりガラスの扉を壊さない程度に勢いよく開け、目の前に広がる光景──想像していたよりもっと酷く、怒鳴り込んだ状態でそのまま固まってしまう。 だって、床に二人分のシャツがぐちゃぐちゃに投げ捨てられ、四人掛けの茶色いソファでくんずほぐれつしている二人。 はふはふと上気した顔でこちらを鬱陶しげに見やる彼は、同性だけど間違いなく俺の愛する恋人で。そんな恋人の上に乗ってるのは、これまた裸の男。しかしそんなことよりも、ずっと問題なことがある。 なぜなら、この人は俺もよく知ってる── 「……お、お前ら兄弟で何しとん…」 脳が整理するよりも早くに口から溢れ出てしまった。ドサリ、と足元に一人浮かれながら作ったケーキの入った箱が落ちる。 衝撃過ぎたのは、そう。 俺の恋人、宝木睦月(たからぎむつき)の浮気相手が睦月の実兄、皐月さんだったから。 「うわあああああ!!」 瞬間、叫び声を上げる俺。ようやく脳が現状を把握し恐ろしいと感じることができた。睦月が「情緒不安定?」と小さい声で呟いたけど、お前は馬鹿か。恋人に最悪の場面を見られたんやぞ、もっと動じろよ。 ん? あれ、俺ホンマにこいつの恋人やったけ。 「円さん、来るなら言って下さいよ」 「いや知らなかったし。何の用?」 手探りでケーキの箱を掴む。落としたせいで見た目が崩れてしまったけど、生クリームたっぷりのこの白いケーキは二人の記念日のために用意した。 付き合って三年目、だがそれも今日までのこと。 「死ねボケェ!!」 叫びながら箱ごと投げつけ、見事、睦月にクリティカルヒット! 「お前とは永遠におさらばじゃ! ほな、さいなら!」 捨て台詞を吐き捨て、一目散に家を飛び出した。 へへッ、怒りのあまり涙も出てこないぜ。 こうして、俺の三年越しの恋心は、さっきのケーキのごとく脆く儚く崩れてしまった。 ああそうさ。カップルは三年目が危機というジンクスに一ミリも抗うことが出来なかったさ。というか、恋人と思ってたのは俺だけで睦月とやらは俺の恋人でも何でもなかったかもしれない。きっとそうだ。 俺、椎名円。高校三年生、ピチピチの17歳! 都内の公立高校に通う至って普通の高校生。恋人は──いない。

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