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(01) 少年

「聞きましたよアラタさん、今度こっちに赴任なんでしょ?」 「相変わらず、耳が早いな。ミノリは」 アラタは、スマホの画面に答えた。 画面には、高校時代の後輩、ミノリの姿が映し出されている。 栗色の癖っ気が特徴で、人懐こい顔。 「あはは、オレの情報網を甘く見ないで下さいよ!」 「ふふふ、さすがミノリだな」 「ところで、こっちに来たら会いませんか? 飲み会しましょう!」 「ああ、そうだな。飲もうか」 「よっしゃ! たのしみに待ってます!」 アラタは、高校時代から何も変わらないミノリの様子に、何だか嬉しい気持ちになっていた。 アラタは、大手商社に勤めるサラリーマン。 容姿は、長身でがっちりとした体格に精悍なマスク。 性格も、さっぱりとしていて男らしく、学生時代から男女問わず人気がある。 それでいて仕事も出来るという理想的な男。 そのアラタだが、大きなプロジェクトがひと段落つき、この度、高校時代を過ごした街に赴任する事になったのだ。 ちょうど先程、引っ越し業者が去っていき、何とか新生活が始められるように整ったところである。 アラタは、両手を上げて伸びをした。 「ふぅ、家の引っ越しも終わったし、少し散歩でもするか」 アラタの高校時代の実家があった場所からはだいぶ離れている。 とはいえ、部活の走り込みで近くに来たことがあり、多少の土地勘はあるつもりだ。 アラタは、キョロキョロしながら歩き出した。 「ここら辺も、ずいぶん変わったな。コンビニ何てあったかな? 昔、スーパーがあったと思ったが……」 昔の記憶なんてあいまいなものだ。 そんな事を考えながら、河原へと足を向けた。 「やっぱり、ここは変わらないな。懐かしい!」 鉄橋を渡る列車、ゆったりと流れる川、そして、夕陽。 辛くも楽しかった高校時代の記憶がよみがえる。 「あー、いいなぁ。高校の頃に戻ったようだ」 アラタはベンチで寝ころんで空を見上げた。 懐かしさに浸る。 っと、目の前に男の子の顔が映った。 「おじさん、こんな所で何をしているの?」 ん? 小学生か? アラタは、起き上がってその子を見た。 上はセーラー、下は半ズボン、それに白いソックスという服装。 癖のある髪に、くりっとした目。 幼く見えるけど、おそらく高学年だろうとアラタは目星を付けた。 その男の子は、アラタの横を指して言った。 「となり座っていい?」 「ああ……いいけど」 その子は、アラタの横にちょこんと座ると何の前触れもなく言った。 「突然だけど、お願いがあるんだ」 「ん?」 「僕をおじさんの家に泊めてくれない?」 「え?」

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