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第17話 疱瘡の神⑤禁断症状

「おい詩、寝てんのか?」  声が聞こえて、それから(ほお)に何か冷たいものが触れた。 (……祓戸……?)  まぶたが重くて持ち上がらないけれど、彼だっていうことは声でわかる。  体を包んでいた悪寒がすうっと引いていった。 「少しは食った方がいい」 (何を?)  食器の擦れ合うような音。にわかには信じられないけれど、彼が食事でも用意してくれるんだろうか。  気になるけれど、詩の意識はまだ夢と現実の狭間に漂ったままだ。  それからしばらくして目を開けたら、皮をむいた柿がひと皿ベッド脇に置かれていた。  中のひと切れには爪楊枝(つまようじ)が刺さっている。 「祓戸……」  彼が小さな果物ナイフを握る姿を想像し、笑みがこぼれた。  柿はどこから持ってきたんだろう? どこかで(もら)ったお供え物だろうか。  爪楊枝を手に取り、ひと切れ頬張(ほおば)る。  優しい甘みが口の中に広がった。  * 「あっ、祓戸の神! 店長の様子はどうですか!?」  学校帰り。店に来てみたソンミンは、『臨時休業』の張り紙の前に座り込む彼を見つけた。 「なんだミンすけか」  視線を上げた神の表情はすぐれない。 「詩なら部屋で寝てるぞ」 「熱は?」 「昨日から下がらねえな」 「そうですか……」  ソンミンも彼の隣にしゃがみ込んだ。 「面倒くさい病気じゃないといいですね」 「面倒くさい病気?」 「知らないんですか? しばらく前から流行病で大変なんです。特効薬がまだないとかで」 「へえ……」  祓戸は不可解そうな顔のまま、小指で耳をかいている。 「神さまは病気にならないんですもんね、興味ないか」  ソンミンはわざとらしくため息をついてみせた。 「それより、あなたここで何してるんですか?」  その問いかけに祓戸は眉間にしわを寄せソンミンを見る。 「詩のコーヒーが飲みてえ」 「コーヒー?」 「あいつが寝込んでいるせいで、昨日も今日もありつけてない」 「店が閉まってるってわかってるのに出てきたんですか?」 「そうだな、これはきっとあれだ。禁断症状」  祓戸がガクリとうなだれる。 「僕が()れましょうか? コーヒー」  ソンミンがささやいた。 「お前が?」  祓戸は疑り深そうに片眉を持ち上げる。 「他の店の前も行ってみたんだが、まるで香りが違うんだよな。受け付けねえ」 「そうでしょうね」  ソンミンが口元に含み笑いを浮かべた。 「けど僕は、店長直伝の技術をマスターしたバリスタですよ?」 「……マジか。だったらお前でも、なんとかなるかもしんねーな」  祓戸の瞳が輝きだす。  その横でソンミンが続けた。 「ただし!」 「なんだよ」 「僕のコーヒーはタダにはなりませんからね? 飲んだらその分働いてもらいます」 「お前……俺に何させる気だ?」 「決まってるでしょう! 神さまだったらとっとと店長の病気を治してください!」  祓戸は思わず脱力した。 「あのなぁ。俺の専門分野は病気治癒でも無病息災でもなくて、そういう力は……」  言いかけてから、彼は唐突に立ち上がる。 「……え、なんですか?」 「いや、やり方によっちゃあ俺にも可能か」 「……?」 「この辺にいる病の神、片っ端からぶっ倒してくる!」

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