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第24話 [閑話]神さまたちのハロウィン②

 翌日――。  詩は早朝から型抜きクッキーを焼いていた。お菓子は既製品で済ませようと思っていたけれど、せっかく早起きしたこともあって気が変わったのだ。  コーヒーカップの形のクッキー2枚とキャンディとマシュマロ。それをショップカードと一緒に小袋に詰めてモールで留める。  そんな地道な作業を続けていると、すぐに店を開ける時間が近付いてきた。 「クッキーですか? いい香り!」  CLOSEDの札の下がったドアを押し、出勤してきたソンミンが目を輝かす。 「おはよ、ミンくん。張り切って作っちゃった。数は作れなかったけど……」  形が欠けてしまったひとつを渡そうとする。  すると、差しだした指先にソンミンの顔が近付いてきて、ぱくんとクッキーを食べてしまった。 「……うっま!」 「そう? よかった」 「てんちょーの指が」 「指は……非売品かな」  ソンミンの笑顔を前に、詩もちょっと照れる。 「数も、これだけあれば十分でしょう! 配布係のふたりがどれだけ役に立つかもわかりませんしね……」  彼はそう続けた。    それからしばらくして、ヴァンパイア姿の祓戸がひょっこりやってきた。 「トリックオアトリート!」  神が悪魔の仮装なんておかしい、なんて言っていたくせに、さっそくなりきっている。  それにしても現われた瞬間すでに仮装が完了しているのは、神さま仕様なんだろうか。  長い髪にひざ下まであるマント、マウスピースの牙がよく似合っていた。 「はい、お菓子! 頑張って配ってきてね」  強奪されるべきお菓子の代わりに、詩は配布用のお菓子を渡す。  かごいっぱいのそれを受け取り、祓戸はなんとも言えない顔をした。 「そうか……。店のお菓子がなくなんねーと、詩にはイタズラできねーのか」 「そうなるね」  詩は笑う。 「店長にイタズラですって!? そんなことをしようとしたら、即刻通報しますから覚悟していてくださいね?」  ソンミンが真顔で腰に手を当てた。 「だいたいあなたは今日ここのバイトなんですから、お客様をトリートすべき立場です! なんでイタズラしようとしてるんですか」 「そういう祭りじゃねーのかよ」 「イタズラが許されるのは子どもくらいです」 「そうかよ……」  祓戸がつまらなそうな顔をした。 「じゃあ、子どもでもトリートしてくるか」 「……あ、ところで疱瘡の神は?」  お菓子のかごを手に出ていこうとするヴァンパイアに聞くと、彼は肩をすくめた。 「さあ。あいつは来ねーだろ」 「ええ……あれだけ言ったのに、空気読まなさすぎでしょう!」  ソンミンが舌打ちする。 「でもまあ、こっちで勝手に話を進めただけで、彼自身、来るとは言ってなかったしね」  詩はとても乗り気には見えなかった、疱瘡の神の顔を思い出す。 「それはまあ……」 「あんなヤツを当てにするのは、お前くらいだぞミンすけ」 「リーダーって呼んでください。今日はバイトリーダーなんで」  にやにやする祓戸に、ソンミンが真顔で返した。 (それにしても、本当に来ないのかな、疱瘡さん……)  詩はなんだかそのことが気にかかる。  そこで開店時間を知らせるアラームが鳴り、混沌(こんとん)としたまま店のハロウィンが始まった。

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