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第25話 [閑話]神さまたちのハロウィン③

 それから――。  思った通り、ハロウィン当日である土曜日は店が混み合った。 「ミンくんごめん、レジお願い!」 「了解、今すぐ!」 「それとお会計の時、ハロウィンのお菓子も渡してね」  来店した客にもレジで配ると、準備していたお菓子はすぐになくなった。 「お客さん、たくさん来てくれてよかったけど……。お菓子を配りに行った祓戸はどうしたんだろう?」  空になったお菓子のかごを横目に、詩はつぶやく。  あれから祓戸は一度だけお菓子を補充しに来たものの、以降音沙汰なしだった。  彼は携帯電話も持っていないし、店内で忙しく働いている詩たちには祓戸の動向はわかりようがない。 「あの人にお菓子を配らせようっていうのは失敗だったんでしょうか……。もともと自由な存在ですし、お菓子ほっぽり出して消えちゃっても不思議はないですよね……」  注文のコーヒーをドリップしながら、今日だけバイトリーダーのソンミンがしおれた声で言った。 「きっと大丈夫だよ。それにいなくなっちゃったとしても、お菓子なんて大した損害じゃないし」  そう言って詩は励ます。  けれど詩自身も気になっていて、店が落ち着いてきた夕方、休憩がてら祓戸を探しに出た。  すると店からすぐの駅前広場に、はたして彼はいた。 「お前らまた来たのかよ! だからさー、お菓子はとっくに売り切れなんだって」  かごを裏返してみせる祓戸は、子どもの仮装するおばけたちに囲まれて、イタズラをされている。  マントの中に侵入されたり、後ろから脇腹をくすぐられたり。 「わはははは!」  子どもの1人なんかは彼の体によじ登ったのか、ちゃっかり肩車されていた。 (なかなか帰ってこないと思ったら、こんなことになってたのか)  目撃した詩の顔にも笑みがこぼれる。  ふいっといなくなってしまうことも多い祓戸だけれども、それは人と同じ常識を持っていないだけで、引き受けたことはちゃんとやってくれる律儀な神だということがわかった。  胸のつかえがひとつなくなった。  あとひとつ、気になるのは疱瘡の神のことだが……。 (あれ?)  広場のベンチから遠巻きに、祓戸を見ている彼の姿を見つけた。  その顔はなんだか寂しげに見える。 「トリックオアトリート!」  詩が近付いていって言うと、疱瘡の神は一瞬体を強ばらせた。 「なんだ、詩か」 「ごめん、驚かせて。でもここで見てるなら、お菓子配り手伝ってくれればよかったのに」  祓戸の方を目で示す。  すると彼はぼそっとこぼした。 「俺はいいんだよ。人には嫌われてるから」 (え……?)  詩はドキリとしながら、疱瘡の神の顔を見返した。  確かに彼はちょっとコワモテで、たとえば街で道を聞かれるようなタイプではないだろう。それに何より病気の神さまだ。人に嫌われるのは宿命みたいなものかもしれない。  それはともかくとして、この神にそんな思いがあったなんて……。  知らずに店のハロウィンに強制動員しようとするとは、ずいぶん可哀想なことをした。  詩は隣に座って彼の横顔に語りかけた。 「でも、僕は好きだよ?」 「……っ……」  疱瘡の神は何か言いたげな顔をする。 「僕は好き」  繰り返すと、今度は苦笑いになった。 「やっぱりお前、変なヤツだな。けど……」  言いながら視線を逸らし、彼は夕空を見上げる。 「変なヤツは嫌いじゃない。……わりと好きだよ」 「疱瘡さん……」  夕日に染まった彼の表情が思いの外晴れやかで……。  詩はその横顔に、自然と目を奪われていた。

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