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第47話 疱瘡の乱⑦病の神たち

 それから2人は疱瘡の神を見つけだすために、病の神を探した。 「病の神は……」  詩は夜の街に目をこらす。 「うへえ、ウヨウヨいるなあ……」 「えっ、どこ?」 「ほらそこに! 流感(りゅうかん)の神に、()()()の神に……」  祓戸が指さした方を見ると、確かにそこに数え切れないほどの小さな神がいる。 「えええっ! ウソ……」 「ウソじゃねーよ」 「そっか、これは感染症が流行るわけだなあ……」  どうも病の神は祓戸には見えていて、詩では簡単には見えないようだ。  祓戸が指さすことでようやく姿を現わす。  というより、意識を向けなければ、人間には見えないものなのかもしれない。  祓戸や少名毘古那や疱瘡の神は人間の目にも見えるのに、不思議だ。 「あー、あっちに大勢いた! あいつらも個路無の神みたいだな」  また祓戸の指さす方を見ると、王冠をかぶった子供たちが飲み屋街の入り口にたむろしていた。  牙を見せて笑う子供たち。危険な香りがぷんぷんする。  詩は半ば無意識に、自分のマスクの位置を直した。  そこへ通りから出てきた人がくしゃみをして、新たな神々がぱっと散らばる。 「なんか腹減ったナー、人間にでも取り付いてヤロ!」  そんな声が聞こえてきて、病の神のひとりが詩の方へ飛んできた。 「わっ!」  横から祓戸が手を伸ばし、すかさずそれを捕まえる。 「ナンダオマエ!」 「俺は祓戸の神だ、(けが)れや災いを(はら)うのが専門。ってことで大人しく祓われろ」 「ヤメロー! 放セェエエ!」  彼の手の中で、小さな病の神は手足をばたつかせている。 「そうか、祓われたくないか。だったら疱瘡の神の居場所を教えろよ」 「疱瘡サン!?」 「ああ。あいつはどこにいる」  祓戸が手の中の神を、目の高さまで持ち上げた。 「怖い怖い怖い! 疱瘡サンは怖いヨ」  どういうわけかその神は、捕まえている祓戸でなく疱瘡の神のことを恐れている。  祓戸がちらっとこっちを見たけれど、詩にもその理由はわからなかった。 「疱瘡サンを見つけてどうスルノ……? 会ったら死ぬヨ?」  病の神はガクガクと震えている。 「死ぬってなんだよ、神が死ぬわけないだろう」  祓戸は疑わしげに彼を眺めた。 「さっきもピカピカの神サマが来て、疱瘡サンに倒されて死んだヨ!」 「ピカピカの神さまって……まさか、少名毘古那さん!?」  彼の光り輝くオーラが脳裏をよぎる。  詩が驚く一方で、祓戸はやはり病の神の言葉を信じていないようだ。 「少名毘古那が疱瘡ごときに負けるわけねえって」 「……死んでルヨ、あいつは死んでル……」  病の神が、飲み屋街になっている薄暗い路地の奥を指さして言った。 「……マジで言ってんのか?」  祓戸がようやくそっちに目を向ける。  その瞬間、病の神が彼の手の中からするっと抜け出していってしまった。 「おいこらっ、待て!」 「ごめんネー!」  声が聞こえた時にはもうその姿はない。 「クソッ、あいつ、逃げるためにウソつきやがったのか」  祓戸が悔しそうに舌打ちした。 「いや、でも……」  何かおかしい。“ピカピカの神さま”なんてそんなウソ……。ウソならもっと当たり障りのないことを言うはずだ。  詩は暗い路地の奥へと目をこらす。 「どうしよう、少名毘古那さんが……」 「少名毘古那がやられるわけ――……って詩?」 「行こう!」  詩は祓戸の腕を引き寄せ、路地の奥へと走りだした。

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