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第60話 番外編:メリークリスマスの牛⑤焼き鳥か、香草焼きか
二人で店の表まで出ていってみる。
「いた! 大国主 の八咫烏 だ!」
少名毘古那が指さすと、その八咫烏が飛んできて彼の肩に留まった。
三本足を持つ大きな鴉 だ。
「八咫烏って、日本神話に出てくる神さまの使いだっけ?」
「そう。昔は道案内なんかで活躍してたけど、今はスマホの地図もあるしそういうことはあんまりだよね」
少名毘古那の言葉が分かるのか、八咫烏は不満そうに羽根を震わせた。
「お前なあ。僕がオニーサンを口説いてるとこ邪魔しに来るとか、わざとでしょ!」
八咫烏がカアと鳴く。
「へえ、大国主に告げ口する気なんだ? 生意気言ってると焼き鳥にするよ。いや、それよりクリスマスだから香草焼きとかの方がいいのかな? オニーサンはどっちがいい?」
「え、僕……!?」
八咫烏が詩を見た。黒光りする目が怖い。
「えーと、焼き鳥も香草焼きもちょっと……今は食欲湧かないな……」
「あれ、命拾いしたね? お前」
少名毘古那の言葉に、八咫烏はカアと鳴く。
「そもそも大国主さんの八咫烏なら、勝手に食べちゃマズいでしょ……」
「まるっときれいに食べちゃったらバレないって」
ブラックジョークなのかなんなのか、少名毘古那はすました顔で言った。
そこで詩は、八咫烏の三本ある足の一本に何かくくりつけられていることに気づく。
「少名毘古那さん、それって……?」
「ああ、たぶん大国主からの手紙だ。あいつスマホとか使えなくてさ、千年前からずっとこれだよ。おじいちゃんか!」
少名毘古那が八咫烏の足にくくりつけられたそれを外した。
紐状に折り畳まれたものを開いていき、ようやく広げたところでじっと見つめる。
「……どうしたの?」
「あー、うん……」
「ねえ、何かあった?」
普段余裕たっぷりの彼が動揺してみえて、詩は心配になる。
「何もないよ」
少名毘古那は手紙を折りたたみ、ポケットに押し込んだ。
「……大国主のやつ、いつも言ってるのにもう……」
「……?」
手紙に何が書かれていたんだろうか。
「日時も書かずに、ただ『会いたい』ってだけ」
「え……?」
少名毘古那の耳元が赤かった。
「……あああ、そういうことか!」
詩はなんだか嬉しくなる。
「クリスマスだもん、会いに行ってあげなよ!」
「クリスマスなんて西洋のお祭り、僕らには関係ないし。今日はオニーサンとデートだし」
「でも少名毘古那さんも会いたいんでしょう? 大国主さんに。顔にそう書いてある」
「書いてないってば……」
店の外は冷たい風が吹いているけれど、心がじんわりと暖かい。
詩は彼の髪をぽんと撫でた。
「行っておいでよ。絶対それがいいって」
「仕方ないなあ、オニーサンがそう言うなら……」
そんな言い方も、照れ隠しなのは分かってる。
「楽しんで」
微笑みかけると、少名毘古那は照れくさそうにちょっと笑った。
それから小さい神は、八咫烏と一緒に去っていく。
「メリークリスマス、少名毘古那さん」
詩は白い息とともにつぶやいた。
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