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《another story》お付き合いしてること。もしかして、知ってる?
「……うう。楓くんのご飯を食べられるのがあと1年で終わりだなんて……」
俺の気持が律さんに届いて3日が過ぎたある日の家族そろっての夕食時。
翔さんは俺が作ったロコモコを食べながら泣いている。
律さんは、『一緒に暮らそう』って言ったことを実行するため、翔さんに話したんだ。
そして今、翔さんはこんな状況になっているわけで……。
翔さん……。
滝のような涙を流しながら夕飯を食べている。
そんな大袈裟な……。
翔さんは大手企業の社長さんで、すごく理知的で冷静だ。眼鏡が余計にクールに見える。
それなのに……。
こんなに泣く姿なんて想像しなかった。
律さんの方を見れば、「父さんは楓が大好きだからね……」と言って苦笑を漏らしていた。
母さんにいたってはクスクス笑うばかりだ。
えっと、俺。
どうしたらいいんだろうか……。
受け答えに困っていると――。
「楓くん!」
「はいっ!」
突然大きな声で翔さんに呼ばれた。
緊張のあまり俺は背筋をシャキッとさせた。
「律に飽きたらいつでも戻って来ればいいよ? ここは君の家だからねっ!」
翔さんがお箸を置いたと思ったら、俺の手を握ってそう言った。
……なんかさ。
翔さんのこの言い方だとまるで俺、お嫁に行くみたいじゃない?
「はいはい。楓は父さんのじゃないからね」
俺の握られた両手は律さんによって解放された。
――んだけど。
今度は俺の両手。律さんに握られてます。
「あのっ、律さんッ!?」
手、離してくれなきゃ!
これじゃあ俺たちの関係、翔さんに知られちゃうよ?
ひとり焦っていると、律さんはにっこり微笑むばかりだ。
いや、それどころじゃない。
「父さんは薫子さんと仲良くすればいいと思う」
そう言って、律さんは俺を引き寄せた。
「楓は俺のだから」
チュッ。
俺、旋毛にキスされました。
「律! 楓くんを幸せにしないと、父さん許さないからなっ!」
ダンッ!
テーブルに両手を着いて身を乗り出し、翔さんは大声でそう言った。
うぇえええええっ!?
これってもしかして、もしかしなくても。
俺と律さんがお付き合いしてるの、翔さんも知ってるの!?
**END**
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