34 / 35
5-10
あの後更に2回求められ、ホテルを出たのはたっぷりと陽の沈んだ後だった。
お互いにLINEの交換すらしていないことに驚き、笑いながら連絡先を交換して家までタクシーで送ってもらった。
あれから数日。アキラは新生活の準備に忙しいらしく、ほとんど会えていない。
正式に教師としての赴任先が決まったと言っていたけれど個人情報だからと学校名までは教えて貰えなかった。
学校が違っちゃうのは少し寂しい気もするけど、ちゃんと就職できたんなら喜ばないと。
そんな事を考えながら迎えた新学期。
いつもと同じ電車に乗って学校へと向かうと新しい教室には和樹とユキがいた。
「また同じクラスだね」
よろしく、とはにかみながらユキに言われて、何処かホッと胸を撫でおろした。
あれから、ユキとはしばらくギクシャクしていたけれど今は普通に話せている。もちろん全てがもとに戻るにはもう少し時間が必要なんだと思う。
友達に戻りたいって言ったのは俺の我儘だ。それでもいいって言ってくれたユキに甘えないようにしないとな。
「拓海~。あれからどうなった? ん?」
「……どう、って……別に」
おはようの挨拶もそこそこにニヤニヤ笑いながら和樹に肘で小突かれ、思わず視線を逸らしてしまう。
「別にって、なんだよ。上手くいったんだろ?」
「あー、まぁ……」
「ねぇ、二人で何の話?」
「拓海の恋のキューピッドはオレだって話!」
「は?」
「ちょっ、和樹! 誤解を招くような発言はやめろよ」
あながち間違ってはいないけれど、それを肯定するにはまだ気恥ずかしさが残る。
それに、今ユキに話すのは何となく気まずい。
「恋のキューピッドってなに? 拓海はまた僕に隠し事するの?」
「う……そういう訳じゃ……」
もごもごと口籠っていると、予鈴が鳴り廊下に先生のシルエットが映り込む。
バタバタと慌てて席に着き、正面を見て驚いた。びっくりしすぎて椅子から転げ落ちそうになった。
「えー、みんな進級おめでとう。今日から正式に2-Aの担当になった加治彰です」
クラスのざわめきが大きくなり、女子たちの黄色い声が大きく響く。
そこに居たのは、間違いなくアキラ。目が合うとぱっちりとウインクされてしまい慌てて視線を逸らした。
そう言うことは前もって言っとけよ~~っ!
よかったな! とばかりにニヤニヤした視線を送って来る和樹と対照的に、ユキの冷たい視線が心なしか痛い。
だけど……そっか、また学校でも会えるんだ。出席を取るアキラの姿を眺めていると、ようやく実感が湧いて来て自然と顔が緩んでしまう。
「渡瀬……、渡瀬ハル」
「って、人の名前を勝手に変えるな~~っ!!」
ハルはアキラ限定のハンドルネーム。
その名で呼ぶのは二人っきりの時だけにして欲しいよ。
クラスメイト達のクスクス笑いを聞きながら、つくづくそう思った。
~完~
ともだちにシェアしよう!