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第1話/事の発端①
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「これはいったい……」
どうしたことだ。
吉澤 直人 は乱れた前髪を掻き上げ、独りごちた。
それというのもここはホテルの一室で、しかも自分の隣にはベッドの上で涙を流しながら眠っている彼――飯島 郁己 がいたからだ。
それも一糸も纏わないその姿で、だ。
直人は目の前の光景に漠然とする。
「――――」
いったいどれくらいの時間が過ぎただろう。
直人が放心状態の中、目の前のベッドで彼が小さな呻き声を上げた。
どうやら彼もお目覚めらしい。
長い睫毛が揺れたかと思えば、二重の大きな目が開かれた。
眠っている郁己を見つめ、ただ呆然と立ち尽くす直人の視線に気がついたのか、彼は直人を見るなり、短い悲鳴を漏らした。
細い腕でブランケットを手繰り寄せ、無防備なその身体に巻きつけた。
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