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第一章・13話

 3ヶ月間、空は雅臣の言った通り、体力づくりと礼儀作法の習得、これまで学んで来なかった知識を身につけた。  それぞれに専属のコーチや教師がおり、手取り足取りみっちり教えてくれた。  過密なスケジュールの中で安らぐひとときは、ピアノを演奏する時間と、雅臣とお茶を飲む時間だ。 「昨日、新しいCD聴いてね、弾ける曲が増えたんだよ」 「それはいい。その調子で、どんどん演奏して。春から、ピアノの教師にも会ってもらうから」 「え~! また先生が増えるのか~!」  大げさに肩を落とす空に、雅臣は笑いかけた。 「ピアノに費やす時間が、ぐんと増えるよ。1日8時間くらいかな」 「ピアノが8時間も弾けるの!? やったぁ!」  これが常人なら、げんなりするところだ。  やはり空はピアノの申し子だな、と雅臣は頷いた。 「でも、雅臣くんにも聴いて欲しいな。僕の演奏」 「ごめん。なかなか時間がとれなくて」  空は、瞼を閉じた。  解ってる。  このお屋敷に来て、痛いほど知ったのは、雅臣くんはすごく優秀で忙しい、ってこと。  世間知らずだった僕も、神一族が日本でどんな存在か解った。  いずれはその家を継ぐ雅臣くんは、僕なんかと遊んでいる暇はない、ってこと。  そして……。  雅臣くんは、僕に触れない。  僕の身体に、触れて来ない。  僕は雅臣くんに買われたのに、一度も抱いてもらっていない。  仕方がない。  一人千円で体を売っていた、汚れたΩの僕なんか抱けないに違いない。 「どうかした?」 「え。あ、ううん。何でもないよ」  甘いはずのお茶が、ひどく苦く感じられた。

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