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第一章・14話

 3年が過ぎた。  二人は19歳になっていた。  雅臣は飛び級で大学を卒業し、空はピアノの腕を上げることに一生懸命な毎日を送っていた。  修学を終えた雅臣は本格的に父の傍で経営に乗り出し、これまで以上に多忙になった。  空とお茶を飲むことも、週に一度あるかどうか。 「寂しいな」 「何が?」 「こうやって、雅臣くんとお茶できるのは久しぶり!」 「それって、寂しいのかな。嬉しいんじゃなくって」 「滅多に会えなくなったことが、寂しいんだ」  ピアノもスランプだし、と溜息をつく空。  お茶が、どんどん冷めてゆく。  空のスランプは、ピアノの教師に聞いていた。 「演奏自体は、完璧です。ただ……」 「ただ? 何か問題が?」  空は、一度聴いた曲は耳コピーで奏でることができる。  しかし、そのコピーが問題なのだ、と教師は言う。 「演奏家の特徴まで、コピーしてしまうんです。彼特有の色が、出せないでいるのです」    一流の演奏家の真似は、できる。  だが、自分自身の演奏が、できない。  それが、空の抱える問題だった。 「私だって、スランプだよ。経営方針を誤って、父に叱られてばかりだ」 「優秀な雅臣くんも、スランプになったりするんだ」 「自信喪失してるよ」 「お互い、大変だね」

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