22 / 93
第一章・最終話
ホールは、嵐のような拍手で包まれていた。
日本の、神グループの主催とあって、客席は満員だ。
その満員の聴衆が、総立ちで拍手を送る。
空の演奏会は、大成功だった。
アンコールが、延々と続く。
用意していたアンコールの曲は、全て弾いてしまった。
残すは、一曲だけだ。
空は、袖に下がって雅臣の手を引いた。
「雅臣、隣に座って」
「空?」
拍手が鳴りやみ、静かになったホール。
音もなく空は、鍵盤に指を置いた。
清らかに奏でられるのは、バッハの『主よ、人の望みの喜びよ』。
「空、これは。この曲は」
「二人の、出会いの曲だよ」
懐かしい、あの日。
この曲と共に、雅臣と空は出会い、歩み、結ばれた。
「雅臣。僕、これからもずっと雅臣のためにピアノを弾いてもいいかな」
「ありがとう。嬉しいよ」
演奏が終わり、二人は万雷の拍手を受けた。
それは、二人の門出を祝うかのようだった。
ともだちにシェアしよう!