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第二章・1話
キンモクセイの木に蕾ができる頃、彼はやって来た。
「白河 瑞(しらかわ みずき)です。よろしくお願いします」
坂田部長の隣で、瑞はぺこりと頭を下げた。
室内は拍手で包まれ、武藤 涼真(むとう りょうま)も多分に漏れず手を叩いていた。
季節外れの新入社員。
故郷で家業を継ぐために辞めて行った高橋の後任として、瑞は入社した。
「求人一人に80人集まったらしいぜ」
「優秀、超優秀。ぼやぼやしてると、追い越されるかも」
「社長、ルックスで選んだんじゃないの?」
そう言われるほど、瑞は整った顔立ちをしていた。
その上、すらりとしたしなやかな身体。
美形好きな社長なら、そう言われても仕方がない。
涼真はくすりと笑ったが、次の言葉で笑顔は消えた。
「でも、Ωだろ」
α、β、Ωの垣根を超えた、自由な社風の会社だが、まだこんなことを言う奴がいたとは。
涼真はそこまでで喫煙室を出た。
瑞の、Ωの悪口を聞くほど悪趣味ではないし、暇でもなかった。
涼真は、今の部署でチーフを務めている。
新入社員・瑞の研修と社に慣れるまでの教育は、彼に任されているのだ。
爽やかな朝が、心無い差別で台無しだ。
デスクに戻ったその時に、瑞が現れた。
「おはようございます、武藤さん」
「おはよう」
瑞は、ビジネスバッグのほかに大きな紙袋を下げている。
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