25 / 93

第二章・2話

「それは?」 「あの、これ。チーズケーキ作ったんです」 「チーズケーキ? 白河くんが?」 「はい。皆さんに食べて欲しくて」  嘘だ。  昨夜寝付けず、夜中に起き出して、自棄になって作った代物だ。 『でも、Ωだろ』  こんな言葉を耳にしたのは、涼真だけではなかった。  噂の新入社員は、そこここで話のタネになっていた。  話の中にはどうしても、こんな悪意のあるものが混じる。  瑞も、それを聞いてしまったのだ。 「Ωで、どうしていけないんだよ! Ωの、どこが悪いんだよ!」  やり場のない怒りで力任せに麺棒をふるい、土台になるビスケットを粉々に砕いた。  そんな念のこもった、チーズケーキだった。  参ったなぁ、と涼真は頭をかいた。 「ごめん、言ってなかったね。ここでは、手作りの差し入れは禁止なんだよ」 「えっ」 「以前、手焼きのクッキーを食べた社員が、ほとんどお腹を壊した事例があってね」 「そうでしたか……」  しゅん、としてしまった瑞に、涼真は明るい声をかけた。 「よかったら、俺にくれない? 今朝、寝坊して弁当作ってないんだ」  昼食代わりにいただく、という涼真に、瑞は慌てた。 「でも、お腹を壊すと大変です。それに、ワンホール全部お一人で食べるんですか!?」 「大丈夫。俺はその時お腹を壊さなかった唯一の人間さ。それに……」  自分は甘党で、ケーキ一台くらい簡単に平らげる、と笑う涼真だ。  その日の昼休み、二人は中庭のベンチに腰かけていた。

ともだちにシェアしよう!