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第二章・2話
「それは?」
「あの、これ。チーズケーキ作ったんです」
「チーズケーキ? 白河くんが?」
「はい。皆さんに食べて欲しくて」
嘘だ。
昨夜寝付けず、夜中に起き出して、自棄になって作った代物だ。
『でも、Ωだろ』
こんな言葉を耳にしたのは、涼真だけではなかった。
噂の新入社員は、そこここで話のタネになっていた。
話の中にはどうしても、こんな悪意のあるものが混じる。
瑞も、それを聞いてしまったのだ。
「Ωで、どうしていけないんだよ! Ωの、どこが悪いんだよ!」
やり場のない怒りで力任せに麺棒をふるい、土台になるビスケットを粉々に砕いた。
そんな念のこもった、チーズケーキだった。
参ったなぁ、と涼真は頭をかいた。
「ごめん、言ってなかったね。ここでは、手作りの差し入れは禁止なんだよ」
「えっ」
「以前、手焼きのクッキーを食べた社員が、ほとんどお腹を壊した事例があってね」
「そうでしたか……」
しゅん、としてしまった瑞に、涼真は明るい声をかけた。
「よかったら、俺にくれない? 今朝、寝坊して弁当作ってないんだ」
昼食代わりにいただく、という涼真に、瑞は慌てた。
「でも、お腹を壊すと大変です。それに、ワンホール全部お一人で食べるんですか!?」
「大丈夫。俺はその時お腹を壊さなかった唯一の人間さ。それに……」
自分は甘党で、ケーキ一台くらい簡単に平らげる、と笑う涼真だ。
その日の昼休み、二人は中庭のベンチに腰かけていた。
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