42 / 93
第三章・1話
月明かりの下だと、何だか素直になれるよな。
そんな言葉の後に、若宮 稀一(わかみや きいち)は続けた。
「好きだ、君のことが」
蒼生(あお)の心臓が、激しく打った。
そんな。
若宮さんが、僕のことを。
僕なんかのことを。
告白された、椿 蒼生(つばき あお)は弱気だった。
「やだな。冗談でしょう? 僕のことΩだからって、あんまり馬鹿にしないで欲しいですよ」
「俺が、αが嫌いか?」
そんなはずはない。
蒼生は、いや、蒼生も稀一のことが好きだった。
容姿端麗、成績優秀な稀一を想う人間は、他にいくらでもいた。
でも、その中から僕を選ぶ理由は?
「僕なんかの、どこがいいんですか?」
「強いて挙げれば、素直で謙虚なところ、そしてちょっぴり勝気なところ、かな」
頬が、耳がどんどん熱くなる。
「付き合ってくれ。俺と」
もう、断る理由などなかった。
「……はい」
柔らかな月明かりの下で、稀一は優しいキスをくれた。
「俺の部屋、寄ってく?」
「……ええ」
ともだちにシェアしよう!