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第三章・6話
稀一は、裕福な家庭に恵まれていた。
大学3年生の途中で海外に1年間留学し、帰国しても就活はせず大学院へ進んだ。
経済的に何ら心配することはないので、ただ心の赴くままに生きていた。
そんなある日、テニスのサークルで蒼生と出会った。
華奢な体からのリターンは、驚くほど鋭い。
甘い顔つきをしていながら、どこまでもボールを追う負けん気。
稀一は、蒼生といつまでもこうしてラリーを楽しんでいたい、と思った。
そんな風に感じる人間に、初めて出会った。
蒼生は、平凡な家庭に生まれ育った。
いい意味で、平凡。
華やかな贅沢はないけれど、絶望する恐慌もない家庭。
両親は真面目に蒼生を育ててくれたし、大学にまで行かせてくれた。
中学、高校とテニスをしていたので、大学でもテニスのサークルに入った。
そこで、噂の稀一と対戦した。
渾身のサーブを、容易く返してくる余裕。
前に落とすと見せかけて、ラインぎりぎりを攻める遊び心。
(若宮さんって、ホントに何でもできるんだな)
お金持ち、イケメン、成績優秀、モデル体型、スポーツマン……。
そんな風に、蒼生は稀一を思った。
そして、他の大勢の人間が感じるように、稀一に想いを寄せるようになった。
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