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第四章・11話
「今日は、『放課後、二人きりの教室で勉強する』というのを、やりたい」
「はいはい」
翌日、朝一番に雄翔は都にポチ袋を渡してきた。
受け取って中を改め、大切にポケットにしまう。
そこへ、宿題の回答を求めて友達がやって来た。
「夏目、物理4問頼む」
まいどあり~♪ と言おうとして、都は戸惑った。
僕は、雄翔の専属何でも屋になったんだった!
『便利屋は、俺一人に絞って欲しい。他の人間からの要望は、受けないでくれ』
雄翔も、こんなことを言ってたし……。
「はい、ノート。今日から、お金はいらないよ」
「いいのか?」
「うん」
これでいい? と言う風に、都は雄翔を見た。
「お金を受け取ってないんだから、便利屋じゃないよね」
「ああ、そうだな。ただ……」
「ただ?」
「いや、何でもない」
ふいっ、と雄翔は自分の席に戻ってしまった。
どうしたんだろう。
やっぱり、契約違反なのかな。
席の雄翔を観察していると、時々こちらを伺うように見ている。
「なぁ、夏目。この3問め、どうしてこんな答えになるんだ?」
「ああ、それはね」
都は、友達に勉強を親切に教えてあげたが、雄翔にはそれが気に入らない。
(俺だけの便利屋、って言ったじゃないか!)
今すぐにでも、そう言って二人の間に割り込みたい。
ただそれは、プライドが許さなかった。
神谷家の長男として、鷹揚に構えるよう自分を叱った。
(いいんだ。放課後に、都を独り占めできるんだから)
そう考えて、気持ちを落ち着けていた。
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