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第四章・12話
放課後、雄翔の希望通りに都は教室に残り、彼と二人きりで勉強をした。
「都、この『奈美子は雨に濡れるまま、傘もささずにただ歩いた』の気持ち、どう思う?」
「奈美子は、雨で自分の弱い心を流したかったんじゃないかな」
「なるほど。俺の考えとは、少し違うな」
国語の問題は、数学や物理と違って答えが一つではない。
どうしても解く人間の主観が入るので、そこが面白いところだ。
「奈美子は、雨で幸一への怒りを鎮めたかったんだ。消火作業だ」
「あぁ、そうか。それもあるかも」
二人、顔を見合わせて笑った。
「でもまぁ、これは正解向けの回答じゃないな。やっぱり都の意見が、正しいんだと思う」
「正解向けの回答、か。何だか切ないね」
「仕方のないことだよ」
切ないと言えば。
雄翔は、朝に都が友人に勉強を教えていた姿を思い出した。
都のあの姿を見て『切ない』と感じたんだ。
「なぜだろう」
「何?」
雄翔は、朝の自分の感情を素直に都に伝えた。
「なぜ俺は、切なくなったんだと思う?」
「そ、それは」
まさか雄翔、本気で僕のことを!?
(いや、待てよ)
『下手な感情移入をせずに、恋人を演じてくれる人物が欲しいんだ』
こんなことを、雄翔は始めに言ってたっけ。
「たぶん、独占欲だよ。それって」
「独占欲」
「雄翔、小さい頃から何でも思い通りに手に入れてきたでしょう」
「よく知ってるな」
「お金持ちのお坊ちゃんだもん、想像つくよ。朝は、自分のもののはずの僕が、他人の手に渡ってたからムカついたんだよ。きっと」
「そうか……」
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