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第四章・13話

 都の意見は、正論だ。  きっと、正解向けの回答だろう。 (でも、そう指摘されて、さらに切なくなるのはどうしてだ?)  俺は、お金持ちのお坊ちゃん。  自分のもののはずの、都。  都が他人の手に渡ってたから、ムカついた。  そういう風に都に見られていることが、やけに切ない。 「どうしたの?」 「あ、いや。何でもない」  勉強は、もうやめよう。  雄翔は、テキストを閉じた。  自分の心に沸いた切なさも、一緒に閉じ込んだ。 「帰ろうか」 「うん。今日はどうするの? カフェに寄る?」 「それは……」  雄翔の言葉が途切れたので、都は彼の見ている方向に目を向けた。  教室のドア向こうに、一人の男子生徒が立っている。  そして都に、手招きして見せた。 「夏目、ちょっといい?」  何だろう。  都は、呼ばれるままに近づいた。  すると彼は、5千円を出して見せた。  都は、慌てた。  すぐ傍で、雄翔が見ているのだ。  身体まで売っていたことを、知られたくなかった。 「もう何でも屋はおしまい、って知ってるだろ?」 「神谷には、合わせてるのに?」  頼むよ、と男子生徒はしつこい。 「俺、夏目のこと好きなんだ。忘れられないんだ!」 「悪いけど僕、君の顔も名前も覚えてないから!」

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