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第四章・21話
夏休み中も、毎日雄翔は都を誘った。
宿題をしたり、カフェに行ったり。
映画に、海に、ショッピング。
都の弟も誘って、バーベキューをしたりした。
「さあ、どんどん食べてくれ!」
「肉~! 美味い、肉~!」
「おい、ちょっとは遠慮しなよ」
いいんだよ、と雄翔は笑顔で肉を焼いている。
「でも、さっきから雄翔、焼いてばっかりじゃん。これ、食べて」
都は、皿に取った肉と野菜を、差し出した。
「ありがとう」
(これって、恋人っぽいよね。彼、喜ぶよね)
自分の言動ひとつひとつを振り返りながら、都は雄翔と付き合っていた。
それは擬似恋人の範疇を越え、自然な振る舞いとして身についていた。
「ああ、美味しかったなぁ。焼肉」
「ね、神谷さんって、兄ちゃんの何? 恋人?」
冷やかす弟に、都はデコピンを喰らわせた。
「そんなはず、ないじゃん。友達だよ、友達」
いや、恋人でも、友達ですらない。
彼は僕の、雇い主。
その事実が、毎日もらう1万円が、都をひどく苦しめるようになってきた。
「ヤバいよ、最近」
演技のはずだった。
お金のためだった、はずなのに。
「雄翔のこと……、好きになっちゃったみたい……」
ベッドに転んで、枕に顔を埋めた。
最初は、お金持ちのお坊ちゃんのお遊びだと思っていた。
本当の恋人が現れた時のための、レッスンだなんて。
一日1万円を、まるで駄菓子でも買うように渡して来るなんて。
「ホントに……、苦手だったんだから……」
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